高嶺格「とおくてよくみえない」展

HAPPENINGText: Meiko Maruyama

その次の二つの立体作品は、緑の肌をした猿か人間の頭のような「I.T.」と、小さな作品「A.I」。ガラスの鉢に入った「A.I」は、コンクリートのブロックに偶然できた蜂の巣を拾って来たという作品だ。

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《とおくてよくみえない》2011年、横浜美術館での展示風景 撮影:今井智己

最後にwelcome(ようこそ)と書かれたネオンサインがあり、展覧会をしめくくる作品、「とおくてよくみえない」への入り口になっている。「とおくてよくみえない」は再び暗い展示室で展開するビデオインスタレーション。正面の大きなスクリーンには、地面に置かれたオブジェにしゃぶりつく男女の影が投影される。これはワークショップの後に生まれた作品である。ワークショップでは二日間(各日約5時間ずつ)に渡ってフェラチオについてのディスカッションが行われたという。映像の最後に映るのはビルの屋上らしき場所で、誇らしげにも見えるかの様に自分の陶芸作品を持って立つ男女の姿が映し出される。

展示室の外にはワークショップで制作された陶器のオブジェが展示され、映像の中で繰り返し様々な国の言葉で聞こえてきた詩が、黒い壁に手書きで書かれている。

この展覧会は、最後にはまるで自分が様々な経験をしたように感じる。最初の作品「野性の法則」で流れている音は、アーティストの妻の陣痛の時の声を録音したものであるという。肌の様なクリーム色の布が、強い風により内側から吹かれるその作品が放つエネルギーは、出産のイメージかもしれない。展覧会「とおくてよくみえない」は美術館の仕組み、パレスチナの友人との関係、日常生活の中にあるアメリカという国の存在、また、在日韓国人である妻との関係、などが、まるで鑑賞者自身の経験のように、体験させながら見せようとしているのかもしれない、と感じた。

高嶺格「とおくてよくみえない」展
会期:2011年1月21日(金)〜3月20日(日)
開館時間:10:00〜18:00
休館日:木曜日
会場:横浜美術館
住所:神奈川県横浜市西区みなとみらい3−4−1
電話:045-221-0300
https://www.yaf.or.jp/yma/

Text: Meiko Maruyama

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