長谷川 愛

PEOPLEText: Aya Shomura

長谷川 愛第19回文化庁メディア芸術祭、アート部門優秀賞受賞作のひとつ、「(不)可能な子供、01:朝子とモリガの場合」。これは、実在する同性カップルの一部の遺伝情報からできうる子どもの遺伝データをランダムに生成し、それをもとに「家族写真」を制作した作品である。制作者の長谷川愛は、これまでも科学技術の進歩、生物学的な課題、社会問題そして倫理観といった世界共通の課題について、アートを通じて切り込んできたアーティストだ。倫理の壁に「なぜ?」「どうして?」と問い続け、センセーショナルな作品を生み出し、果敢に議論を促す彼女にインタビューを行なった。

長谷川 愛
長谷川 愛

このたびは、第19回文化庁メディア芸術祭、アート部門での優秀賞受賞、おめでとうございます。

ありがとうございます。以前はロンドンにて都市とインタラクションというような建築系デザイン会社でコンセプトデザインをしていたのですが、ここ数年はもっとSF的で、バイオロジーに興味もでてきたのもあって「未来の生殖」にまつわる作品を作っています。本能と呼ばれる分野に興味があるので、食べること、未来の食についても興味あります。

ご自身の公式サイトに「Expand the Future」(未来を広げる)をうたい、『私にとってアートやデザインは日常生活における課題解決のためのツールであり、同時にその解決策そのものが私達の“この社会で生きる”認識への問いかけとなる』と述べていらっしゃいます。この考えに至った経験または経緯を教えて下さい。何か、具体的な出来事などがあったのでしょうか?

私はSFや漫画、アニメが好きなのですが、その一番の理由は、新たな気づき、視点を与えてくれることです。私は『アートを通じて新たな視点を与えたら、もしかしたらそれは新たな未来の可能性ということに繋がるのではないのかな?』と思っています。「広げる」というよりも「未来を拡張したい」という感じですね。ぐりぐりと。

普通のデザインとは「問題解決」と言われるモノで、特にマジョリティーに対するデザインが主流かと思います。私が師事したアンソニー・ダンとフィオナ・レイビーが提唱するクリティカル・デザイン、スペキュラティヴ・デザインという分野では、デザインによって「問題提起」をします(長くなるので、詳細は彼らの「スペキュラティヴ・デザイン」をお読み下さい)。ちなみに、私の作品では私にとっての「問題解決策の提案」(まだ機能する技術としては実在していないので)なのですが、私以外の人達には「問題提起」として機能しうるということです。


「私はイルカを産みたい…」, 2013

例えば「私はイルカを産みたい…」という作品は、私が30歳になり、出産に対して真摯に向き合わなければならない時期に環境問題が多くニュースに取り上げられていて、人口過多と食料問題のほか、『そもそもこれ以上人間は必要ないのではないか?こんなに破壊されてゆく環境に子供は強制的に産み落とされて幸せなのだろうか?』などを考えさせられました。

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「私は鮫を産みたい…」ジレンマ・チャート, 2012 © Ai Hasegawa

しかし、ホルモンの変化からか、肉体の内側から『子供が欲しいんじゃないの?』とつついてくる。しかし、子供を産まないとなると、人生のうち約40年間毎月来る生理痛が全くの無駄になる。そんな混乱したジレンマに対する解決策は現在無くて、『もし技術的な制約を考えずに選択肢があるのならばどうしたら私は救われるのか?」と考えた時に、「現在人間の補食活動の為に絶滅に陥っている動物を代理出産できたら』と。そして『何でも産めるんだったら、鮫とイルカ産みたいな〜』*という妄想に辿り着きました。

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「私は鮫を産みたい…」人体模型, 2012 © Ai Hasegawa

その次のステップで『本当に技術的に不可能なのか?』ということを色々な方々、特に産婦人科の医者や胎盤の研究者の方にインタビューしたり論文を読んだりして、技術的な可能性のヒントを集めました。その結果『本気で実行しようとすれば意外とできるのではないか?』ということと、意外と賛同の反応を頂いて「未来ってこうやって変化していくものかもしれない」と思いました。最初は突拍子もない馬鹿げたことに聞こえるかも知れませんが、掘り下げて行くと意外とそんなこともない。『そんな考え方が、可能性があったんだ!』という感じで、この世の中に対する物事の見方とか認識、そして発想を変えれたらなと思っています。

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