末次弘明

PEOPLEText: Aya Shomura

北海道を拠点に、東京や札幌でコンセプチュアルな作品を精力的に発表している作家、末次弘明。数多くの実験的な準備段階を経た深淵かつ静謐な作品は、平面からインスタレーションまで幅広い。スタイルに拘ることなく、モチーフに真摯に向き合うストイックな姿勢はどこからやってくるのだろう。現在、クロスホテル札幌で開催中の個展「デディケイテッド・ライン」(原題:DEDICATED LINE、意味:専用回線)、選出作家として参加している「カウパレード・ニセコ」の作品のほか、バックグラウンドや美術そのものへの質問に、てらいなく答える彼の言葉は私たちの耳にすっと入り込んでくる。

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Hiroaki Suetsugu

初めに自己紹介をお願いします。

末次弘明です。僕は作品を作ったり、教育に関わったり、美術に関する色々な活動をしています。世間一般に美術って少し特別なものと思われがちなのですけど、そうではなく、とても身近にあって、それに気づいたら、とても自分を刺激し活力を与えてくれる、人によっては癒しを与えてくれるもので、快適な生活を送るために必要なものだと思っています。そのことを、工夫をしながら色々な人に伝えるということをしています。

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“HOLES”, “DEDICATED LINE” Cross Hotel Sapporo, Sapporo, Hybrid pigments on canvas, 2015, Photo: Yoshisato Komaki

美術の道を進もうと決めたきっかけは何だったのでしょうか?

そうですね、初めは全くこの世界に興味はありませんでした。高校生の頃はずっと体育会系の部活ばかりをやっていた、理系の落ちこぼれでしたし。ただ、ありがたいことに昔から手先が器用で、物を作ったり絵を描いたりすることが得意でした。自分で何かを作る、ということに自然に惹かれていったのだと思います。初めはただぼんやりと、デザインやPCで何とかできないかと思っていたのですが、自分の進路を決定する大学受験の時に、とある美術予備校の先生から「君は油(彩)が向いているよ」と言われ、なぜかその気になり、思いっきり舵を切って今に至っています。また美術の世界で、素晴らしい先生や先輩、友人に巡り合えたことが大きいと思います。

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“Translation”, STV Entrance Gallery, Sapporo, Acrylic & Digital print, 2009, Photo: Hiroaki Suetsugu

油画科在籍中は、絵画ではなくインスタレーション制作に取り組んでいらしたそうですが、なぜインスタレーションだったのでしょうか?

一番の理由は、当時、絵を描くことが辛かったからだと思います。そこから開放されたかった。高校卒業年から4年間、ずっと絵を描きました。もちろん大学試験合格のためだけにです。毎年挫折を繰り返し、ようやく希望の大学へ行けたあかつきには「絵から自由になれる、いや、なるんだ!」とずっと思っていました。黙々と絵を描いていく中で、自由になった後のことをいろいろ妄想できたことが、大学での活動に役立ったと思います。入学時には、既に色々なプランがあり、勢いに任せて制作をした感じです。なぜインスタレーションか?ということでは、インスタレーションってつまり「なんでもあり」なことなので、必然的にそうなったということです。何にでも挑戦したかった。大学の4年間はそうして過ごし、卒業制作では大きな鉄のインスタレーション作品「霧のフォークロア」という作品を制作しました。ここが一つのけじめだと思い、院生になってからは徐々に平面表現のリハビリを開始しました(笑)。4年間のブランクは大きいもので、なかなか苦労しました。今でも苦労しています。

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“Real Love”, RECTO VERSO GALLERY, Tokyo, Acrylic, 2011, Photo: Hiroaki Suetsugu

末次さんの作品は、その時々によって非常に幅広く、異なる絵画表現を取り入れていらっしゃいます。意識して実験的に制作なさっているのでしょうか?

はい、大体そのとおりですが、作品として発表する時には全て実験は完了している状態です。実験による数多くの失敗作の上に発表する作品があります。失敗作は木枠やパネルから剥ぎ取り、家のカーテンとして再利用しています。ドローイング作品では実験そのものを作品にしているイメージです。瞬間のひらめきと体の動きで生まれる作品と、下準備や習作などの長い経過を経て生まれる作品が僕にとっては必須で、きちんと区別してあげなくてはならないし、両方分け隔てなく、責任を持って社会に出していかなくてはならないと思っています。また、さらに大切なのは「何を描くか、表すか」の「何」の部分なので、描く対称が何なのか、モチーフが何なのかを自分で飲み込んでおくことを心がけています。「描く・表す」手法は何でも良いし、モチーフに対してどんな表現手法がベストなのかを考えることが大切だと思います。そこに自分なりの表現スタイルは必要ありません。もちろん日々の習作の中で技術や技法は身につけておく必要はありますが、スタイルと言われるものは技術や技法であってはならなくて、モチーフと向き合う姿勢そのものだったり、その人そのものであって、結果として作品からにじみ出てくるものです。モチーフの中に世界の謎があり、その謎に対して答えを解明しようとするも良し、謎そのものを作品に投影するも良し。そしてモチーフに敬意を示すことが何より大切です。

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“Kristallnacht”, PORTO Gallery, Sapporo, Woods and India ink, 2013, Photo: Hiroaki Suetsugu

ご出身は九州ですが、北海道に移り住んだことは、作品にも影響を与えていますか?

それは間違いなく大きいです。北海道にいなかったら現在の作品はもちろん生まれていないし、全く別のものになっていたと思います。もしかすると制作もしなかったかもしれません。導かれるように北海道に来たのだと思っています。移住当時、絵画の制作では、山の稜線や空、雲、海に広がる水平線などをモチーフにしていましたので、雄大な自然が広がる北海道で、それをモチーフに制作しなくては、と思っていました。ところが、いざ来てみると、雄大な自然よりも先に、手に収まるような小さな自然物に大きく心を動かされました。身近にあった、等身大の自然が、僕に何かを語りかけているような気がしました。そのギャップに心を掴まれてしまった感じです。また、北海道では素晴らしい人達と出会うことができました。現在も様々な人との素敵な出会いがあります。北海道の人は自由で温かい。その人達との交流がパワーとなって今を過ごせていると思います。

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Production scene of “Really really love it!!!”, CowParade Niseko, Niseko, 2015, Photo: Hiroaki Suetsugu

大学でも教鞭を取っていらっしゃり、学生の皆さんにも様々な経験と体験の機会を設けているという印象を強く受けます。どんなことを感じとって欲しいとお思いですか?

そうですね、僕もそうでしたが、学生時代にしか味わえない感覚があると思います。同じものでも見え方が違ったり。勉強も大切ですが、それ以上にいろんなことに挑戦し、体験することが大切だと思います。石膏デッサンでも、同じところに座って見るだけでは正確な形がわからないように、立ち上がって、いろんな角度から見て、触って初めて形が少しだけ理解できる。頭だけではなく体全てで経験することが学びにつながると思います。私の研究室は看板に「現代美術」とありますが、何もイメージほど難しいことはなく、表現する人間としての在り方を、手探りで探していくところです。とてもアナログです。表現について探求を進めることももちろんですが、芸術が持つ素晴らしさや面白さを、自分なりのやり方で人に伝えることができるようになって欲しいですね。

今、興味・関心のあることを教えて下さい。

やっぱり自然現象に関心があります。特に、最近天気予報でも映像を見ることができる「ひまわり8号」ですね。これまでのものと違い、雲の動きがヌルヌルとして、見ていてとても面白い。来年、ひまわり9号が打ち上げられる予定ですが、どんな最新機器で情報を送ってくれるのかが今から楽しみです。あとは、北海道に初めて来た当時に比べても、明らかに気候が変化しています。これも見守っていきたいですね。そのうち雪が降らなくなるかも?

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“Really really love it!!!”, CowParade Niseko, Niseko, 2015

10月1日まで開催されている「カウパレード・ニセコ」では、選出作家としても参加されています。どのような作品でしょうか?

はい、タイトルが「Really really love it!!!」といいます。「カウ」と呼ばれるFRP樹脂でできた原寸大の牛の模型全面に、牧草を描いた作品です。牛はおそらく牧草が大好きで、牧草を食べることで生きている。そんな状況を作品にしました。カウの曲面の上に、垂直の牧草を描いたので、角度によって面白い見え方をします。この夏、秋はいろんな作家さんによる、47体もの楽しいカウたちに会いに、是非ニセコへお越しください!

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“Smell like beast #1”, “DEDICATED LINE” Cross Hotel Sapporo, Sapporo, Hybrid pigments on canvas, 2015, Photo: Yoshisato Komaki

クロスホテルでの個展「デディケイテッド・ライン」に出品なさっている作品や、タイトルに込めた意味もお聞かせ下さい。

そうですね、僕は自分の作品を、とても個人的な作品だと考えています。僕だけが理解していればよい、といったわがままなものです。それと同時に、僕個人は世界と繋がっていて、作品もまた僕を通して世界と繋がっています。ただしそれは、不特定多数の人に伝える電波ではなく、1本の専用回線(デディケイテッド・ライン)で繋がるイメージで「伝えたい気持ちはあるけれどもそんなにたくさんの人でなくていい。せめて見に来てくれたあなたには、この作品や気持ちを伝えたい」という思いです。もしかすると僕は何かしらの世界を表現しているかもしれないので、見てそれを感じてもらえたらこれ以上嬉しいことはないですね。

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“Untitled #101-#104”, 2014, “DEDICATED LINE” Cross Hotel Sapporo, Sapporo, Ink on paper (#101) / Acrylic on paper, 2015, Photo: Yoshisato Komaki

改めて、末次さんにとって美術とはどのような存在でしょうか?

うーん、存在ということで言えば、神様のような存在でしょうか。僕は完全にその下僕です。美術の神様は時々降りてきて、人間にとっていい作品を作らせてくれたり、啓示をくれたりします。真っ白いキャンバスにのり移って「描け」と命令します。でもいつも助けられて、生かされています。

今後のご予定を教えて下さい。

8月8日、9日に「NO-DO Art Project 夏の遠足2015」というイベントを開催します。8日はポルトギャラリー(札幌市中央区南1条西22丁目)、9日は夕張郡由仁町にある「由仁実験芸術農場」(YuniEAF)です。僕は9日の由仁での公開制作ワークショップを行いますので、どなたでも是非ご参加ください。詳しくはFacebookに載せています。僕の名前を検索してください。また、北海道教育大学の現代美術・平面表現研究室展「ひらひら展 vol.3 後期」が9月4日(金)から17日(木)まで、北海道教育大学アーツ&スポーツ文化複合施設HUG(札幌市中央区北1条東2丁目4番地)にて開催されます。9月11日(金)にはレセプションパーティーを行います。こちらも是非お越しください!

MACHINAKA ART-X_edition vol.16 末次弘明 個展「DEDICATED LINE」
会期:2015年6月1日(月)~8月30日(日)
会場:クロスホテル札幌 2階ロビー・ミートラウンジ
住所:札幌市中央区北2西2
主催:クロスホテル札幌(企画部 011-272-0051)
キュレーション:クラークギャラリー+SHIFT
協力:まちなかアート
http://crossmet.jp/sapporo

CowParade Niseko
会期:2015年7月1日(水)〜10月1日(木)
会場:ニセコ、倶知安エリアに点在(地図ダウンロード
アーティスト:小林俊哉SHUUNシンヤチサト末次弘明力石咲文月悠光松岡亮米澤卓也ワビサビほか(五十音順/全47体)
公式アプリ:こちらよりダウンロード(無料)
主催:一般社団法人ニセコプロモーションボード
協賛:池内グループ、シャレーアイビー、HTホリデーズ、ニセコグラン・ヒラフ、ニセコHANAZONOリゾート、デロイトトーマツ、木ニセコ、ニセード、MnKニセコ、エクスプロア・ニセコ、フレッシュパウダー・ニセコ、シレーニ・エステート、エヴィアン、サンクチュアリー・ニセコ、ニセコプロモーションボード、リングプロジェクト、スカイバス、坐忘林、雪華、スキージャパン・ドットコム、ザ・ヴェール・ニセコ、ニセコ町、ザ・ニセコ・カンパニー、吹雪、ザ・バーン、四季ニセコ、ウエスト・カナダ・ホームズ、アルペン・リッジ、ザ・ニセコ・サプライカンパニー、オージービーフ、株式会社双葉工業社、株式会社中山組、岩田地崎建設株式会社、清水建設株式会社
TEL:0136 21 2551
観覧無料
http://cowparadeniseko.com

Text: Aya Shomura
Translation: Yoshisato Komaki, Hiroaki Suetsugu

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