榎 忠
PEOPLEText: Kazumi Oiwa
6月6日から7月27日まで札幌宮の森美術館で開催されている「この男、危険。榎忠展」。設営3日目に直接、榎忠(えのき ちゅう)さんとお話できる場を与えていただいた。
タイトルが「この男、危険。」というのだから、さぞかし怖い方なのかと思っていたら榎さんは笑顔で、そして関西人らしいジョーク付きで私たちの取材に答えてくれた。榎さんのスタイル、美への思い、そして自分自身への挑戦。マーケットを気にせず、とにかく自分を信じて、自分のやりたいことを大切にしている榎さん。大好きなお酒とたばこを片手に、約1時間半、榎さんの美への思いをお伺いした。
榎忠「ハンガリー国へハンガリ(半刈り)で行く」 1977年 写真提供:榎忠、札幌宮の森美術館
まず榎さんといえばこの半刈り姿が印象的ですよね。
うん、ほれ髪の毛っておもしろいやん。若い時はな1年間に10センチとかどんどんどんどん、余裕で伸びるやん。そんなん、丸坊主にしたってすぐ元に戻るし。僕自身を変えよう思ってその髪型にしたんよ。
交互に半分刈って、この作品になるまで4年もかかったらしいですね!そしてその姿でハンガリーに行ったんですよね?
最初1年くらいかけて、右側の毛という毛を剃って、また1年半くらいかけて左側の毛を剃ったんよ。そのスタイルでハンガリーに行って、その後列車でずーっと旅したな。ハンガリーには3、4日しか滞在できなかったんよ。まだ1977年頃やから共産圏いうて一般人は入国が厳しかった。
たまたま僕の知り合いが、ハンガリーで物理の大学教授をやってて、向こうからメッセージを送ってもろうて、それでそんなに日本の素晴らしい人ならいうて、よいしょをしてもらってやっとビザが下りたんよ。本来なら入国が厳しいのに、その姿でいったわけや(笑)。
もう、周りの人たちは驚いていたんじゃないですか?
みんなナニ人?って顔で見てきたね。モンゴル人か、中国人か、日本人ってわからへん。それで日本人や言うても日本ってどこにあるんか、場所がわからへんのよ。
それくらい閉鎖的な場所やったから。だから皆の前で丸をかいて、ヨーロッパを書いて、アジアを書いて、ここが日本やって。
その姿で、それくらい閉鎖的で厳しいところに行って、危ない目に合わなかったですか?
いや、逆に向こうが怖がって、どう対応して良いか分からんかったみたい。ヤクザでもないし、宗教家でもないし、向こうがもの凄い想像して。だから電車とかに乗ると向かい合わせになるでしょ?そうすると目が合って、相手がビクッとなってるのが分かるんよ!だけど目をそらすのもなんやし、どうしたらええか…。みたいな態度を相手がしてて、だから僕から声をかけるんよ、子供とかに。そしたらかばんやら何やら触って、じっとしておられんなってな。
最初は見られる感覚やったけど、最後のほうは逆に僕が相手を見るようになってたね。相手のドキドキも伝わるようになってた。おもろかったよ、触らせろだとか1日中つけ回してきたりな。
そもそも、なぜ半刈りに?
僕は1997年まで「ZERO」というグループで活動してて約10年近くやっとったんやけど、自分も結婚したし、時代も変わって前までの感覚ではやっていられなくなって、グループをやめてしまった。そしてこれからは、自分だけの美術をやっていこうと思ったんよ。そこで自宅を開放して「生活」とか「日常」をテーマに展覧会をやってみたんよ。だから僕自身も日常を変えて、その半刈り姿になってみた。
これからは自分だけの芸術に向かっていくぞ!という刻印を自分自身の体にいれたわけや。昔の軍隊だって、戦いにいくときは皆、坊主にしてたり何やらしてたやろ。その先、何があるのか分からんのに。それってすごい不安やん?だから色々想像するわけ。この先やっていけるんか分からんから、色々やってみるわけ。決意を決めるために、自分自身に刻印をいれた、それが半刈りやったな。
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