とかち国際現代アート展「デメーテル」

HAPPENINGText: Sachiko Kurashina

私がデメーテルを訪れたイベント初日の7月13日(土)には、3回に渡り「ヤドランカコンサート」が行われていた。まだ太陽が頭の上にあり暑さが厳しかった頃、会場から離れた場所でお昼を取っていたのだが、遠くから聞こえてくる、なんだかほっとしてしまう様な歌声がとても気持ちよかった。私は夕方からのコンサートに参加。ヤドランカさんは、旧ユーゴスラビアのサラエボ生まれのミュージシャン。今回は、琵琶奏者の坂田美子さんとオールフリーボーカリゼーションを展開している福岡ユタカさんとのコラボレーションライブだ。

まず、ライブ前の入念なチェックを行っている福岡さんの不思議な声に惹かれた。ミキサーを通して福岡さんの声は多様に変化していたが、それを聴きながら、作品を鑑賞している時にどこかの厩舎近くで不思議な声を出している男性がいたことを思い出した。あれは福岡さんだったのだ。しばらくしてヤドランカさんと坂田さんが見慣れない楽器を持って登場。ヤドランカさんの楽器は「サズ」といって、7弦から成るトルコ、バルカン半島周辺の民俗楽器。ボディの裏部分が丸くボール状なっているのが特徴で、マンドリンに近い調弦を持つ。坂田さんのは「薩摩琵琶」で、琵琶歌を奏でる楽器として普及した日本の伝統楽器だ。ボディは漆で仕上げられており、とても豪華。枹(ばち)は、三味線の枹のジャンボサイズといった感じで、深みのある音を奏でる楽器だ。福岡さんのエレクトロなサウンドと声。異国の民俗楽器とヤドランカさんの包み込むような唄声。そして坂田さんの控えめながらも力強い唄声と琵琶演奏。ジャンルは全く違えども、リラックスしたムードの中での演奏はそれぞれが絶妙に共鳴し合い、とても印象的だった。

夕方と夜の狭間の時間。空も刻々とその色を変え、涼しい風に乗って耳に届く3人の音は本当に心地良く、30人にも満たなかったであろう観客へのこのパフォーマンスは贅沢という言葉以外、あてはまらない気がした。

ものすごく平和的。私は2日間の滞在中、終始このことを「デメーテル」について一番強く感じることとして受け止めていた。「本当に国際現代アート展なんだろうか?」と、ふと思ってしまう程、リラックスしながら「デメーテル」を思う存分楽しむことができた。有名な美術館で有名な作品を見ても、今までは「これは有名なんだ」と確認するだけで、目の前にあっても遠いもののように感じることが多かった。しかし「デメーテル」では、イベントそのものとそこで生活する人々が直接的に繋がっていることを強く感じることができた。

鑑賞中に誰かが『これは見てもらったり、それで稼ぐのを目的にしていないイベントではないのか』と言っているのを聞いたが、それも一理あるかもしれない。競馬場横では、サッカー少年達が試合をする風景があったり、「デメーテル」なぞそっちのけで、いつも通り競馬を楽しむ人が居たり、来場者も小さな子供からお年寄りまでだったり、スタッフと気軽に「こんにちは」と挨拶を交わしたりする姿があったりと、「何かすごいものが来たから、散歩がてら見に行こうか」的な、肩ひじをはったような堅苦しさはそこには全く無かったし、国際現代アート展を十勝の人々が何の抵抗も無く、すんなりと受け入れているような印象が感じられた。そして、普段アートというものに接する機会が無い人たちにも、アートをこのように気軽に親しんでもらえるのならば、きっかけとしてこの「デメーテル」は好例ではないだろうかと思った。

コンクリートではない、土の道を歩くのがこんなにも気持ち良いことも忘れかけていた。いつもは大きくて怖いカラスも、十勝の大空を羽ばたく姿はきれいに見えた。自然からのマイナスイオンシャワーと、作品からのアートシャワーを全身に浴び、浄化された爽やかな気分で私は帰りの電車に乗った。

とかち国際現代アート展「デメーテル」
会期:2002年7月13日(土)~9月23日(月)
会場:帯広競馬場、帯広駅周辺、緑ヶ岡公園など
主催:帯広市、帯広商工会議所、十勝毎日新聞社、とかち国際現代アート展実行委員会
入場料:一般 1800円、高校生 1000円、小・中学生 600円
デメーテル事務局:北海道帯広市西14条南8丁目1帯広競馬場内
https://www.demeter.jp

Text: Sachiko Kurashina
Photos: Sachiko Kurashina

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