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とかち国際現代アート展「デメーテル」

HAPPENINGText: Sachiko Kurashina

次に訪れた厩舎3棟では、以前シフトでもインタビューした、ドイツ人アーティスト、インゴ・ギュンターの作品が展示されていた。帯広までの道中、そのインタビュー記事に目を通していた私は、彼に対して若干難しい印象を持っていた。ジャーナリスト、著者、芸術家と様々な顔を持つ彼は、余りにも多才すぎて上手く把握できなかったのだ。しかし最初に見た作品「中国製、インド製、タイ製、その他原産国不明の馬たち」で、彼に抱いていた重い感情が一気に軽くなり、身近な存在にさえ思えた。


Horses made in China, India, Thailand and of unknown origin, Ingo Gunter (Germany)

実物大ぐらいの馬のオブジェが厩舎に展示されている作品だと思っていたら、田舎の親戚の家にあるような、様々な馬のおもちゃが厩舎内の馬房に見つけることができた。小さすぎて干し草にまぎれているものもある。鑑賞中、あるご老人が若いスタッフに『ここ(帯広競馬場)には昔、何百頭と馬がいたんだよ』と、話しているのを聞いた。それを聞いた後におもちゃの馬達を見て私は、のびのびと馬場を走る、昔の栄光のようなものを思い浮かべた。馬がいない馬房もあり、そこではその栄光を忘れられず厩舎から逃げた馬を想像した。中には厩舎独特のにおいを「くさい」と言って何も見ずに出て行ってしまったカップルもいたが、私はその場に長く居れば居る程、不思議と安心感と懐かしさを感じた。普通のサラリーマン家庭で育ち、馬年生まれである以外、それ程馬との接点もなくここまで来てしまったが、心無しかほっとしたのは何故だろう。


Shadow renderings of random imaginations of horse in contemporary kitsch, Ingo Gunter (Germany)

豆電球よりも淡い光の中で浮かび上がっていたのは「馬についての脈略のない想像の現代キッチュ風シャドーレタリング」という作品。馬房の壁に影絵のように写し出された馬達の姿は、光が弱い為に影自体ははっきりしたものではないが、その姿からは先のご老人が指していたであろう、馬が人々の生活の中で重要な位置を占めていた、最も輝いていた時代を彷佛とさせた。暗い厩舎から光り溢れる外へ出る瞬間は、時空を遡る感じがした。


210 small and medium pieces occasionally taking place, Ingo Gunter (Germany)

最後に鑑賞したギュンダーの作品は「時折、形を成す中小210の断片」という作品。「鑑賞する」というよりこの作品の場合、「覗く」と言った方が妥当かもしれない。すでに廃屋に近い古い厩舎の壁の隙間に近付くと、黄金色に輝く本物の馬の骨格標本が天井から釣らされているのが確認できた。金色だからそれだけでゴージャスなはずなのに、心無しかこの作品からは寂しい印象を受けた。

そして「馬に踊らされ一獲千金を夢見た人々を、この馬の骨は笑っているのか、悲しんでいるのか…」という説明書きを読んで、なるほど、と納得。馬がいなければ、私たちの今の近代的生活もなかったかもしれない。日本だろうと海外だろうと、時代劇には必ず馬が登場する。私のような馬との接点がない生活を送って来た人たちにとっても、やはりどこかで馬とは切っても切れないつながりがあるのではないかと思った。

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