とかち国際現代アート展「デメーテル」
フィンランドの建築家ユニット、カサグランデ&リンターラは、帯広がフィンランドと同じく北方文化圏に属していることから、その共通点や相違点を探す旅を作品として発表した。「ダラス‐カレワラ」。24日間に渡るヘルシンキから帯広まで、車でのロシア大陸横断。帯広までの 12,000キロの道程、立ち寄った24ケ所でそこの老婦人の写真、斧、地元のラジオ番組を録音しながら、フィンランドと北海道の間に住む人々の起源へと遡りつつ、東と西を往来してきた人々の遺伝子に組み込まれた記憶を辿った旅だ。
Dallas-Kalevala, Casagranda and Rintala (Finland)
最初は馬房から聞こえてくる異国の言葉のラジオがBGMのようだったが、24個目の馬房から聞こえて来たのは日本語だ。老婦人の顔も西洋の顔から日本人の顔になり、耳と目、両方から24日間の旅を感じることができた。きっとこれから先も行くことはない、そして今までも聞いたことのない所にも人がいて、生活を営んでいる。カサグランデ&リンターラの言葉『人々はこれまでごく自然に東西を行き来していたのだから、日本人は隣人』というのに何だか嬉しくなった。
海外で生活をしていた頃、時々日本がとても遠くに思え、まるで違う星にいるような気がすることがあった。きれいに晴れ渡っていても『本当にこの空はむこうまでつながっているのか?』と思い、そのような時は大抵嫌なことがあった時だった。だから今回、カサグランデ&リンターラの『日本人は隣人』、『同じ空が流れているのだ』という言葉に、今さらながら納得し、何だか救われた感じがした。
Abesent Racetrack, Tadashi Kawamata (Japan)
会場内のいたるところで見かけた木馬は、デメ-テル号と言い、川俣正の作品。本物の馬のデメーテル号は実在し、それが北海道の何処かの競馬場で走っている間、不在を象徴するのが木馬のデメーテル号で「不在の競馬場」という作品名がついている。木馬のデメーテル号はこのイベントのシンボルキャラクター的存在感を放っており、試乗も可能。押して進ませることもできるが、馬に乗って足掛けをずんずん押すことで、胴体下にあるゴムが伸びて前進する仕組みになっている。
厩舎では、北海道だけでしか行われていない「ばんえい競馬」(重いソリを引きながら、障害を乗り越える競技)で奮起するたくましい馬の映像が流れており、今日も何処かでソリを引くデメーテル号を偲ばせていた。ループ状に敷かれた木道のトラック(全長、約1キロ)を動き回る木馬のデメ-テル号からは、新しい木のにおいがし、始まったばかりのこのイベントの初々しさと合っていた。
nIALL Project_Obihiro/Wobder-Land-Scape (Woekshop), nIALL Cafe, Click in “Aozora”, Seeking-Terior, Pin-up City, etc., nIALL/Masato Nakamura, Kenta Kishi, Haruaki Tanaka (Japan)
競馬場のど真ん中に住宅展示場が。なんだか不思議な組み合わせだが、展示場特有の区画された広い空間と、馬場の広大さが妙に引き合っている感じがした。これは、中村政人、岸健太、田中陽明が中心となり、市民、ハウスメーカー、ボランティアスタッフによる社会介入の為のオープンプロセス「nIALL」(ニアル。n=変数、I=主体、ALL=総関網)だ。帯広市が実施している住宅展示場をそのまま販売、住宅地化している「かちまいホームセンター」からヒントを得た作品だ。
実際に住宅に入ってみると、天井が吹き抜けになっていたり、壁の部分が未完成であったりと、それ故に開放感があり、風が吹き抜ける感があって気持ちいい。玄関部分だけが遠く離れてぽつんとあったり、木で区画された風景からは、これから始まる明るい未来を予感させた。
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