とかち国際現代アート展「デメーテル」

HAPPENINGText: Sachiko Kurashina

岩井成昭の作品「雪のウポポ」は、実は2回に分けて鑑賞しに行った作品。と言うのも、細長い厩舎の窓はすべて締切られ、夜よりも暗が深い感じ。そこに、雪を彷佛とさせる弱い光が舞い、複数の人々の声が木霊しているのだ。そのような中に一人は、正直「怖い」と思い、初日は2メートルぐらいしか中に入れなかった。意を決した2日目は、それでも10メートル弱の前進。人々の言葉も、「木霊」という2文字を想像すると「霊」がついているだけに恐怖感を増すが、耳を澄ませば不思議と引き込まれ、前日からの怖さも薄らいだ。


Snow Upopo, Shigeaki Iwai (Japan) Photo: Yoshihiro Hagiwara

「ウポポ」とは、北海道の先住民族・アイヌの言葉で「歌」を指す。「十勝の雪」をキーワードとして、十勝に住む100人以上の人々が各々の「降り積もる雪の音は…」、「次の初雪は…」、「雪の色は…」「雪が教えてくれるものは…」等といったイメージを語り、それを十勝でしかありえないウポポとして作り上げた作品だ。冬の間、降りしきる雪を見上げると、雪に吸い込まれそうな感覚を覚える時があるが、空間内に舞う光の粒は、それに似ているなと思った。

そして以前ソーソーで生のライブを演奏してくれたオキのウポポと、この作品を重ね合わせていた。十勝の人々の生活も、アイヌ民族の文化も、どちらも古くからこの土地に根付いて来たもの。それが雪が降り積もるように静かに、しかしどこか力強くウポポに乗って伝わってくる感じがした。


A Homeless Woman, Cairo, 2001, 6:33, Kim Sooja (Korea)

「物乞いの女、ラゴス」と「ホームレスの女、カイロ」は、韓国人アーティスト、金守子(キム・スージャ)の作品。これらは、1999年から制作しているビデオ作品「針の女」に続くものだ。こちらも光が遮断された真っ暗な厩舎の一番奥で、ひっそりと作品が上映されていた。しかも無声フィルム。音がないからこそ余計、そこで何が起こっているのかを確かめたくなる。暗さという恐怖にここでも四苦八苦しながら、できるだけ近付いて鑑賞した。


A Homeless Woman, Cairo, 2001, 6:33, Kim Sooja (Korea)

「物乞いの女、ラゴス」は、雑踏の中に座り、右手を差し出す女の後ろ姿をひたすら撮影した作品。過ぎ行く人々の脚と、時折風になびく女の髪しか動きはない。「ホームレスの女、カイロ」では、道の真ん中で横たわる女をギャラリーが囲んでいる。女はまだ生きているのか、否か。女の周りと、ギャラリーの周りの空気も違うように感じる。両作品を見て共通して強く感じたのは、スクリーンの中にあるであろう、女を取り巻く混沌とした喧噪と、その時私が居た鳥のさえずりしか聞こえてこない場所とのギャップだった。

「社会の中で女性というジェンダーが担う役割を柔らかなまなざしで問いかける金守子のビデオワーク」という説明書きがあったが、一つの空間にプラスとマイナス、相反するものが存在していると思った私には、「柔らかい」というよりも、何かしら「鋭い」ものがあるように感じられた。

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