NIKE 公式オンラインストア

竹岡雄二展「台座から空間へ」

HAPPENINGText: Shuhei Ohata

この部屋を抜けると「台座彫刻」に関するドローイングが展示されている部屋があり、その先に二つの大きな展示空間があるのだが、その前にドローイングについて簡単に触れておきたい。ロダンの《青銅時代》、ボッチョーニの《空間における連続性の唯一の形態》、ジャコメッティーやマルセル・デュシャンの彫刻の台座だけが展示されている空間がそれぞれ描かれている。これらのドローイングを観ると彫刻の不在感を強く意識させるのだが、その後に展示されている「台座彫刻」に向き合うと、不在感よりも、それ自体が充実した造形物として空間を支配しているように見えた。

この仕事はさらに、ガラスケースやショーケース、マガジンラックなど日常的なモチーフで展開されて行くが、私が不在感を意識させられたものはいずれもガラスケースやショーケースのタイプの作品からであった。

takeoka_03m
展示風景 埼玉県立近代美術館提供

特に《クリーン・ルーム・ジャパン》(再制作2016年/1997年)は大掛かりなガラスケースで、ケースの内部と外部は完全に遮断されている。内部を覗き込むと、床面に人造大理石が敷かれており、日本人なら四畳半の分割にふと気づかされるかもしれない。それは空間のスケール感を図る尺度となるかもしれないが、それ以外の手がかりとなるようなものはない。通常ガラスケースの中には見るべき対象が用意されている。そのガラスケースの中に何もないとしたら、私たちは何か腑に落ちない感覚や不在感というものを意識する事になるからだ。

この作品が展示されている大きな展示空間の壁の一つは、作り付けのガラス張りの陳列ケースが全面に拡がっている。その中には通常通り作品(竹岡の作品ではなく、今回同時開催されていた遠山記念館の所蔵品を竹岡が選んだもの)が納められている。この二つのガラスケースの対比によって、その役割や機能についての問いを鑑賞者と共有しようとしているようにも映った。

また、《クリーン・ルーム・ジャパン》は美術空間だけでなく屋外の公共空間での展示を試みようとしているようで、そのプロジェクトの為のドローイングも展示されていた。

takeoka_05m
展示風景 埼玉県立近代美術館提供

美術の制度的な効力の発揮される空間はもちろん、遠山記念館のような日本家屋での展示は、簡潔な造形と高い質感を兼ね備える竹岡の作品の魅力を引き出すのにふさわしい場所に映った。だが同時に、この作品を公共空間で試みる事には違和感を感じてしまった。《クリーン・ルーム・ジャパン》は確かに原理的には、美術的な問題だけではなく、見る事の問題へと繋がっている。一方、公共空間は様々な思惑が交錯する空間であり、意味と意味がぶつかり合う場所だ。だから意志がハッキリと見えてこないものは埋没してしまう。

そうした空間の中では、繊細な表現や、意味をはぎ取ったり、脱臼させるような操作はどこまで、美術鑑賞を前提としない場所で人々を刺激する事ができるのだろうか?

どちらかと言えば、与えようとする効果や目的を絞り込んで、それを強調する事が求められるのではないだろうか?

もちろん実施された時の状況を体験する前の段階で、あれこれ判断する事ではないかもしれない。だが、プランそのものを作品として提示されている以上、鑑賞者にも完成のイメージを想像する余地を与えられていることを前提とした展示だとも考えられる。

興味深く感じられたのは、どの作品も向き合って見ると、作品そのものから、それを取り巻く環境へと意識が向き、その環境が形作られている制度的な問題へと私たちを引き込んで行くところにある。普段当たり前に感じている物事の「前提」に出会う、そんな経験を与えてくれる展覧会であった。

竹岡雄二「台座から空間へ」
会期:2016年7月9日(土)~ 9月4日(日)
時間:10:00~17:30
休館日:月曜日(7月18日は開館)
会場:埼玉県立近代美術館
住所:埼玉県さいたま市浦和区常盤9-30-1
TEL:048-824-0111
https://www.pref.spec.ed.jp/momas/

Text: Shuhei Ohata
Photos: Achim Kukulies, Düsseldorf © Yuji Takeoka, Courtesy of WAKO WORKS OF ART, The Museum of Modern Art, Saitama

【ボランティア募集】翻訳・編集ライターを募集中です。詳細はメールでお問い合わせください。
MoMA STORE