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「英国美術の現在史:ターナー賞の歩み」展

HAPPENINGText: Shiori Saito

ロンドンのテート・ブリテンで1984年にはじめて開催され、今や現代美術界で最も重要な賞のひとつとされる、ターナー賞。「一般市民が新しい美術に関心を持つようになる」ことを目的に設立されたこの賞には、その言葉どおり毎年極めて先鋭的なアーティストが選出され、様々な論争を巻き起こしながらもロンドン市民をはじめ全世界の注目の的となっている。東京・森美術館で2008年4月25日から7月13日まで開催されている「英国美術の現在史:ターナー賞の歩み展」は、この賞の歴代受賞者全ての作品を展示するという史上初の試みである。

この賞の名の元となった19世紀イギリスの画家、ジョセフ・マロード・ウィリアム・ターナーの絵画に迎えられエントランスを抜けると、歴代受賞者の作品が一堂に並ぶギャラリーはまさに「新しい美術」で満ちた刺激的な空間である。

英国美術の現在史:ターナー賞の歩み展
ギルバート&ジョージ《デス・アフター・ライフ》1984年. 482 × 1105cm/写真に着色/大阪市立近代美術館建設準備室蔵

まずは絵画にも彫刻にも新しい流れが生まれはじめた80年代。ターナー賞第一回の受賞者、マルコム・モーリーの色鮮やかな絵画《クレタ島に別れを告げて》(1984年)にはじまり、当時のロンドンを湧かせた斬新な絵画、彫刻を回顧しながらギャラリーを進むと、観覧者の注目を集めていたのは1986年受賞者、ギルバート&ジョージの巨大な写真作品《デス・アフター・ライフ》(1984年)。2人は自らを「生きる彫刻」と称し様々なパフォーマンスを行ってきた。展示は写真に着色したパネルを組み上げた大作で、当時のロンドンの社会的背景をポップかつエネルギッシュに表現し、観るものの心をつかんでいた。

ビデオ機材が一般に浸透してきた90年代、ターナー賞受賞者の中にも、ビデオ作品を制作するアーティストが新たに生まれてきた。ジリアン・ウェアリングによる、静止した警察官を60分間撮り続ける作品『60分間の沈黙』(1996年)や母娘のつかみ合いの喧嘩を記録し逆再生する《サーシャとママ》(1996年)。また、反転させた映像を2面に並べたダグラス・ゴードンの《正当化された罪人の告白》(1995年)には様々な編集技術も見られ、90年代後半急速に身近になりはじめた「ビデオ」の特性を用いて表現するアーティストたちの新しい流れを楽しむことができる。

英国美術の現在史:ターナー賞の歩み展
ダミアン・ハースト《母と子、分断されて》1993年. 208.6×332.5×109cm (x2), 113.6×169×62cm (×2)/スチール、ガラス強化プラスチック、ガラス、シリコン、牛、子牛、ホルムアルデヒド溶液/アストルップ・ファーンリ近代美術館、オスロ蔵

そして本展で最も話題となっているであろう作品の一つ、日本初展示となるダミアン・ハーストの《母と子、分断されて》(1993年)。親子の牛を分断し、それをホルマリン漬けにしたこの作品は発表と同時に世界中で論争を巻き起こし、大注目を集めた。一般市民の間にもアートが日常的な話題となる一つのきっかけとなった重要な作品である。発表から10年以上経った今でも人々に変わらぬ衝撃を与えるこの作品の前には、この日も多数の観客が足を止め、それぞれの感想を語り合っていた。さらに観客は、分断されたケースの間を歩いてくぐることができる。写真では決して感じることのできない感覚が、この作品を実際に肉眼で見たときにはじめて立ち上がってくる。少しでも興味のある人ならば必見であろう。

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