ボロス・コレクション
PLACEText: Kiyohide Hayashi
クリスティアン・ボロス、おそらくベルリンのアート業界で彼の名前を知らぬものはいないだろう。広告代理店を営む彼は常に展覧会やオープニングに顔を出す有名人であり、何より現代アート作品を集めるコレクターとして知られている。1964年ポーランドに生まれたボロスが現代アートに魅了されコレクションを始めたのは1990年頃。以降多くの作品を購入していくなかで、2003年にコレクションを一般に公開することを決意し、それに相応しい展示スペースを見つけて購入した。もちろんごく普通のスペースではない。20世紀ベルリンの様々な歴史を刻み込んだ巨大なブンカー(防空要塞)である。
ベルリン中心部の駅近くに位置するブンカーは、第二次大戦中に鉄道を使用する旅客が空襲から避難するために建てられたものだ。2000人収容可能な巨大な建物は空襲被害を避けるための対策を講じており、ほとんど窓が付けられておらず、鉄筋コンクリートによる厚さ1.8メートルの壁、厚さ3メートルの屋根を備えている。このような堅牢な建物は今となっては戦時の空襲の激しさを偲ばせる一方で、周囲の風景に溶け込むことのない異質なモニュメントと化している。
しかし建物に刻み込まれたのは戦争の記憶だけではない。コンクリートの化け物のような建造物は、第二次世界戦争から現在までこの街の歴史を眺め続けてきたのだ。戦後ベルリンが焼け野原となっても建物は破壊されることはなく、ソ連軍によって捕虜収容場として使用された。東西ドイツ分裂後は旧東ドイツ側に属し、同じく社会主義国であるキューバから輸入された南国のフルーツを貯蔵する保管庫として使用されたという。そして東西ドイツ再統一後はベルリンに栄えるクラブ・カルチャーと結びつき、テクノクラブがスペースを構えた。つまり特殊な建物は通常の使用用途に適さないがゆえに時代を象徴するような特殊な用途に使われてきた。
Anselm Reyle, left: “Life Enigma”, 2008. right: “Untitled”, 2008. Photo: Noshe
そして今や我々の時代の現代アートにスペースを占有させることで、ボロスは建物の歴史に自分の名前を刻もうとしている。しかし現代アートの美術館という用途だけではない。かつて国民のために建てられ、その後クラブ・カルチャーのために使用された建物は今や個人の所有物となり、屋上にはコレクターのモダンな住居が建てられている。つまり、この巨大な空間の個人的使用は今の時代を象徴する特殊な使用用途でもあるのだ。
Olafur Eliasson, left: “Untitled” (In cooperation with Elias Hjorleifsson)”, 1998. right: “Untitled”, 1997. Photo: Noshe
2008年にオープンした彼の美術館は3000平方メートルの広さを持ち、現在国際的に活躍するアーティストの作品が展示されている。コレクションについては、多数の作品が展示されているオラファー・エリアソンを中核として位置づけることができるかもしれない。
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