「坂本龍一 | 音を視る 時を聴く」展
HAPPENINGText: Alma Reyes
エンニオ・モリコーネ、ジョン・ウィリアムズ、そして坂本龍一。作曲家、ピアニスト、プロデューサー、俳優として活躍する坂本は、コードや楽譜という技術的な律動を超越し、音楽を水、風、太陽、地球、そして私たちを取り巻く自然環境と流れる形而上学的な次元へと導いた。1978年『千のナイフ』でソロデビュー。同年、YMO(イエロー・マジック・オーケストラ)結成に参加し、1983年の散開後も多方面で活躍。『戦場のメリー・クリスマス』(1983年)、『ラストエンペラー』(1987年)、『リトル・ブッダ』(1993年)、『レヴェナント:蘇えりし者』(2015年)などの映画音楽で知られ、グラミー賞、ゴールデン・グローブ賞、アカデミー賞などで受賞やノミネートを果たした。
坂本龍一 ポートレート Photo: Neo Sora © 2017 Kab Inc.
東京都現代美術館で、「坂本龍一 | 音を視る 時を聴く」展が3月30日まで開催されている。本展は、坂本龍一の独創的な音楽、映像、ムーブメントを含む大型インスタレーション作品を包括的に紹介する日本では初となる最大規模の個展。コラボレーション・アーティストには、高谷史郎(ダムタイプ)、真鍋大度、カールステン・ニコライ、アピチャッポン・ウィーラセタクン、岩井俊雄、中谷芙二子らが名を連ねる。展覧会タイトルにあるように、坂本龍一の「音を視る、時を聴く」ことは、鑑賞者の目と耳を開きながら、心を揺さぶり、従来の音楽鑑賞や美術鑑賞とは異なる体験を生み出す。
坂本龍一+高谷史郎《TIME TIME》2024年、「坂本龍一|音を視る 時を聴く」東京都現代美術館、2024年 Photo: Kazuo Fukunaga © 2024 KAB Inc.
坂本は、アーティストの高谷史郎と近年最も多くのコラボレーションを行ってきた。最初の展示室では、2021年にアムステルダムのオランダ・フェスティバルで初演された演劇作品《TIME》をベースにした巨大な3面パネルの新作インスタレーション、坂本龍一+高谷史郎《TIME TIME》(2024年)が来場者を迎える。夏目漱石の『夢十夜(第一夜)』や、能の『邯鄲』、荘周の『胡蝶の夢』などをモチーフに、「時間とは何か」という問いを考える夢の世界を演出、坂本作品の多くに登場する「水」と人との関わりを中心に、さまざまな時間の交錯が解釈された。高谷史郎が撮影した宮田まゆみの笙の楽器演奏や、ダンサー田中泯の映像出演など、すべてが坂本の自由な音楽に包まれている。
坂本龍一+高谷史郎《water state 1》2013年、「坂本龍一|音を視る 時を聴く」東京都現代美術館、2024年 Photo: Noriko Yamamoto
坂本と高谷のインスタレーションには水や霧が重要な要素として繰り返し登場する。坂本龍一+高谷史郎《water state 1》(2013年)では、展示室中央の黒い水盤に水が満たされており、気象衛星のデータをもとに天井の装置から雨粒を落下させ、音や照明が変化していく。空に映る海のようでもあり、水たまりに落ちる微細な雫のようでもある。来場者は足を止め、鏡のような水面に映る記憶や思考を見つめ、周囲に設置された岩に象徴される自然と共鳴する。
また、坂本龍一 with 高谷史郎《IS YOUR TIME》(2017/2024年)では、水盤の上に浮かんでいるように見えるピアノが現れる。頭上には、静かに降る雪がスクリーンに映し出される。坂本はこのピアノを、2011年の東日本大震災で被災した宮城県の高校で見つけたという。彼はこの作品を「自然によって調律されたピアノ」と捉え、世界各地の地震データを使って、地球を鳴動する装置として新たな命を吹き込んだ。
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