サエボーグ ENCHANTED ANIMALS(魔法にかかった動物たち)
HAPPENINGText: Alma Reyes
黒部峡谷や黒部ダムで有名な富山県黒部市に位置する黒部市美術館では、開館30周年を記念し富山県出身のアーティスト、サエボーグの展覧会「サエボーグ Enchanted Animals(魔法にかかった動物たち)」を今年1月13日まで開催している。サエボーグは、手づくりのラテックス製ボディスーツで自身の身体を拡張させて、家畜等のキャラクターに扮し、パフォーマンスを行っている。そして、農場や家という生活世界を舞台に彼らの役割を演じることで、生きることの関係や構造を開示してきた。
サエボーグ Enchanted Animals 展示風景、2024年、黒部市美術館 Photo: Ryohei Yanagihara
本展において来場者はまず、入口に置かれた動物たちの耳や尻尾などから好きなものを選び身に付けて家畜に扮し、展示室の農場世界に入っていくことになる。会場内では、歩き回ったり、寝転がったりするなど、自由にのんびりと過ごすことができる。そして、時には、歌い、大きな声で鳴くことが、農場から聞こえる音や家畜たちの鳴き声で構成される音楽等の演出によって誘導されていく。鑑賞者自身が家畜に変身し、演じることによって、家畜に対する内省が生まれ、人間と家畜、そして他者と共に生きる自らの価値観や生き方がつくり直されていくような一つの世界を創出する舞台的空間となっている。
サエボーグ Enchanted Animals 展示風景、2024年、黒部市美術館 Photo: Ryohei Yanagihara
展示スペースに入ると、柵の中に設置されたラテックス製の母豚《Pigpen(ピッグペン)》(2016年)の大きさに驚かされる。本展会期中にも行われたサエボーグ初期の代表作であるこの巨大な母豚のパフォーマンスでは、鑑賞者が子豚になって母豚から生まれる体験をすることができた。母豚は出産し、授乳をする。子豚たちは、産まれ、そして死んでいく。それは人工的に管理された畜産の過程を露呈している。
サエボーグ Enchanted Animals 展示風景、2024年、黒部市美術館 Photo: Ryohei Yanagihara
展示室の奥には人目を引く《Pootopia(プートピア)》(2020年)のインスタレーションが展開されている。このハエが群がる巨大な糞の山は、サエボーグ家畜の糞から出来た糞の城で、フンコロガシ達の住みかでもあり、食べ物でもある。過去には、フンコロガシの世話係であるアリに扮したパフォーマーと、ハエをペットに糞の山のまわりでくつろぐフンコロガシが、思いがけない形に変身したり、糞を分解するパフォーマンスが行われている。
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