田名網敬一 記憶の冒険

HAPPENINGText: Alma Reyes

第4章「人工の楽園」では、広い展示室にアクリルやシルクスクリーンの版画が壁面に広がり、原色の木や鉄、漆のように見える彫刻が並ぶ。自身の脳内で増幅される「記憶」を主題に創作活動を続ける田名網。展示された作品は、1980年に中国を訪れた作家の記憶を理想郷として表現している。田名網はこの国の自然の風景と、古代中国の不老不死を願う神仙思想やアジアの民衆文化に大きな刺激を受けた。


第4章「人工の楽園」展示風景  Photo: Alma Reyes


Keiichi Tanaami, Law of the Forest, 2024

挑戦的かつ実験的な仕事を膨大にこなした70年代の疲労からか、田名網は1981年、45歳の時に大病を患い生死の境を彷徨う。この4ヶ月近くの入院生活の中で、田名網は毎晩幻覚にうなされた。しかし、この経験から田名網は、新しい作品の創作エネルギーを得ることになる。「死を身近に意識することが生きることにつながるし、創作を支える強固なエネルギーになることを知った」と自身で語っているように、1980年代から90年代を通して、田名網は「生と死」をテーマにした作品を数多く残している。鶴や象といった生き物、螺旋状の性器、裸婦などと共に登場する格闘技(ボクシング)のリングなどの建築的造形といった箱庭的なモチーフも、この時期に田名網が絵画や立体作品として取り組んだ一連のシリーズの特徴である。


Keiichi Tanaami, Presence, 2022


展示風景より、田名網敬一《アルチンボルドの迷宮》2024年  Photo: Alma Reyes

田名網の代表作の大部分は、彼が「記憶の修築」と呼ぶものから生まれている。田名網は、10代の頃から夢を記録することに夢中になっていた。また、1990年頃から、幼い頃、あるいは本や映画で見たエピソードや登場人物、動物などを記録し、後ろに詳細なメモをつけたドローイングを描いていた。2000年以降はデジタルでデータも駆使し、これまで田名網自身の作品に現れていた様々なモチーフが再び組み合わされることで、より複雑でダイナミックなイメージが展開されていく。


《記憶の修築》展示風景:「田名網敬一 記憶の修築」NANZUKA、東京、2020年   © Keiichi Tanaami / Courtesy of NANZUKA

デジタル・キャンバスの版画作品《気配》(2022年)、そして2つのインスタレーション作品、田名網のアトリエを模した木造建築《アルチンボルドの迷宮》(2024年)、ガラス張りの温室《記憶の修築》(2020年)は、戦時中の体験や、ハリウッド女優、有名な美術の題材、その他のオブジェとリンクした夢のコラージュの迷路が炸裂し、観客をアーティストのパンデモニウムの精神回路に引きずり込む。

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