第17回 文化庁メディア芸術祭
音響を基軸にしたシステムを利用したメディアアート作品で活躍する三原聡一郎は、2011年より展開している「空白」プロジェクトの一環として制作された「 を超える為の余白」でアート部門・優秀賞を受賞した。
三原聡一郎「 を超える為の余白」展示風景
会場内の小部屋に設置された作品からはジワジワと溢れ出る泡。時にその塊は人の身丈を大きく超え、消えてゆく気泡と生まれでる泡は常に留まる事無く変化し続けてゆく。3.11というトラウマに端を発し、何かを失った時の “空虚” さ、不安定で流動的なその「空白」な現状を “泡” で具現化しているこの作品は、作品体験を通して社会の在り方への気づきや未解決な事物への自由な “問い” として見る者それぞれの感情や議論を引き出すきっかけになって欲しいという願いが込められている。
その他の優秀賞には、ニューヨークタイムズやグーグルマップといった一般メディアのみを利用し無人航空機に爆撃された場所と画像を集めたジェームズ・ブライドル(イギリス)のプロジェクト「ドローンスタグラム」や、オープンソースとして公開されているビッグデータを元にロサンゼルス周辺の43,000個以上ものプールや人工水域をマッピングする膨大なプロセスを可視化したベネディクト・グロース(ドイツ)の作品など、情報の透明性を求めるものやテクノロジー過信への批判を込めてマテリアライズする作品などが入賞した。
アート部門では今回、初めて審査委員とは別に選考委員による事前選考が行われるようになり、より一つ一つの作品が精査できるようになったという。入賞こそしていないが、充実した審査委員会推薦作品も多く見られた。
会場でひと際存在感を放っていたのは和田永の「時折織成-落下する記録-」。オープンリールという旧式のメディアの見方を変え、新たな価値を見出す作品としてICC「オープン・スペース2013」でも同シリーズが展示されている。
和田永「時折織成 ―落下する記録―」展示風景
そびえ立つ巨大なアクリル容器上部に設置されたオープンリール式テープレコーダーが再生されると磁気テープが容器に落下してゆき、時間と共にグラフィカルな模様を織り積んでゆく。テープが溜まりきるとそれまでの静寂を断ち切る交響楽と共に一気に巻き上げられ、それまで創りだされた模様は消滅、新たな偶然の撓みが再び織り成されてゆく。会場では交響楽が高らかに響き渡るたびに多くの観客が作品の前に詰めかけていた。
ドラ・ガルシア「The Joycean Society」2012 HD Video © Photo: Giovanni Pancino, Courtesy of Prince Pierre of Monaco Foundation
また展示はされてはいないが、2011年ヴェネツィアビエンナーレ・スペイン館代表ドラ・ガルシア(スペイン)による「ザ・ジョイサン・ソサイエティ」も推薦作品に選ばれている。
これは30年間にも渡って続くジェイムズ・ジョイス著作を読む会の模様を捉えた映像作品だ。最初の1ページから最後の1文字までを、参加者は11年という歳月をかけて読み解いてゆき、その後また最初の言葉へと戻ってゆく。彼らにとって “世界” とはこの部屋の中での時間のみを意味するのだろうか。もしくはこの部屋が故に世界は存在しているのか。この “部屋” を私たちが日々過ごすそれぞれの環境になぞらえてみるとき、それは決して特殊な状況では無い事を実感するのかもしれない。
続きを読む ...