渡邊希
PEOPLEText: Mariko Takei
作品に、黒と赤を使っているその理由は何ですか?
黒は、私が無になれる、そして、人が色に惑わされないで見ることのできる色だということです。吸い込まれることに集中してくれる色だというのが大きな理由です。鉄分の科学反応で黒くなるその力というのは、絶対に他では作れない黒だから。
「ドロシー」(2005)/ ギャラリー門馬ANNEX「渡邊希展 – うるし恋しなまめかし-」展示風景
赤は、宗教的な意味合いというか、お祭りとか葬儀とか鳥居とか、人に「魔」的な印象を与えるのと、逆に元気になったり、盛り上げたりという、興奮の色だと思うから、象徴的なものを作りたい時は赤を使います。札幌のギャラリー門馬ANNEXで展示した「ドロシー」(2005)という作品は、この空間での展示の為に作った作品なのですが、全く艶がなく、森を覗かせようという意識を赤で引きつける、「門」のような感じのイメージがあり、この作品には、赤を使っています。
赤の作品では、鏡のように見える表現は追っていなくて、漆の中に赤い顔料を使っているので、漆に不純物がはいるのです。色鮮やかにはなりますが、吸い込まれる奥行きというのとは、また違うものになります。
「女こゝろ」(2009)乾漆(漆、麻布、地の粉)
「女こゝろ」(2009)は、赤黒それぞれマットと艶の2種類があるのですが、マットの方が自然光で形が変わるというのが生きていて、艶の方は、目の前に立つといろんな自分を映り込む効果が強いです。この作品は、一枚の板から、ちょこっとだけ出っ張りがある作品で、24時間日が射す方向が変わる度に違う形に見えるという、女の人みたいですよね。
「skin」(2005)乾漆(漆、麻布、地の粉)
作品をつくる上でインスピレーションになっているものはありますか?
例えば「skin」(2005)だと、自然なものを形に固めたいと思うから、カーテンとか。カーテンの揺れているのが美しいと思うから、「今の揺れいいね。固めたい!」っていうのがあります。あと、人が着ている服があって、でも人がいない服だけの状態で、だけど人が入っているふうに見えるその形とか。そういうのが面白くて、固めてみたいと思うのです。
今後、どんな作品を制作してみたいですか?
真っ黒な空間で展示してみたいです。少しだけ照明で照らして、床一面に、北海道ならラベンダーや、白いバラ、白い花などで、作品の見え方を変えるというようなインスタレーションをしようと思っています。
あと、今は艶やマットのシリーズを展開していますが、これからは、どんどん朽ちていく表現がしてみたいです。お花とかも枯れていくところに美しさを感じるのですが、滅びていく美しさというというか。漆も紫外線に当てると劣化して、透明感がなくなり曇っていくのです。漆は酸にもアルカリにも強いのですが、紫外線にだけは弱いのです。後世生き残って土の中に還っていくためにある、自然の条件なのですね。それを利用したインスタレーションをしてみたいです。
今後の展覧会予定は?
今秋に7つくらい展示の予定があります。9月始めに上海の美術館で展示がある他、10月に会津の芸術祭で日本の漆造形作家が集まって作品を展示します。あとカナダや札幌、来年にはロンドンやニューヨークでも展示を行います。
Text: Mariko Takei