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マリアンナ・ドブコウスカ

PEOPLEText: Noriko Yamakoshi

新たに作家を招聘する際に、事前におおまかな筋道を立てたり、レジデンスプログラムとして気をつけていることなどはありますか?

プロジェクトによって様々ですが、私が関わるプログラムではできる限り自由度を確保した環境条件でプロジェクトに集中してもらえるよう努めています。作品の制作を強要することはあまりありません。何よりも彼ららしいテイストやリズムを自然に出して欲しいと考えているからです。招聘される作家の多くは、事前に何らかの関係性や⽂脈がある事が多く、全く面識の無い作家が招かれるケースは稀です。スタジオ訪問や作家の他のプロジェクトを通して彼らの事を事前に知っているケースが殆どですから。またモンドリアン・フォンズなど、提携している他の美術機関から推薦を得る場合も多いですね。とはいえ、予算が限られているプロジェクトが多いので、まずはその枠組みの中で何ができるのかを考えることがスタートポイントにはなることは確かです。ただそれは決して制限ではありません。必要であれば資金調達をしながらその先に進めていけば良いのですから。

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Bread and pizza baking oven project, Juliette Delventhal and Paweł Kruk, 2011, Photo: Michał Grochowiak,
Courtesy of CCA Ujazdowski Castle and the artists

レジデントの為にできる限り自由度を確保しながら、実際の関わり合いの中でベストな方向性を見極め、そして引き出していくのですね。

そうです。私はレジデンシーはメディウムだと思っています。そのため、コミッションで作品を制作して貰うプロジェクトとは⼤きく違います。実際に施設に滞在する作家と接し、彼らの考えを理解して、やりたい事を見極めていくというプロセスの中で、様々なアイディアが浮かび上がってくるのです。もちろん、事前にアイディアの種を持っているアーティストやプロジェクトもありますが、我々は決して最初から詳細且つ明確な提案を求めることはしません。その良い例のひとつが、ジュリア・デルベンサルのケースかもしれません。料理家である彼女は二度に渡ってCCAを訪れ、二つのプロジェクトを生み出しました。一つは公園の中に位置するようなCCAの立地と環境条件の体感を通して、サスティナブルなパーマカルチャー庭園を造り上げた「ウィ・アー・ライク・ガーデンズ」。

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Bread and pizza baking oven project, Juliette Delventhal and Paweł Kruk, 2011, Photo: Michał Grochowiak,
Courtesy of CCA Ujazdowski Castle and the artists

もう一つは、現地のマーケットで採れる作物や農家と繋がっていくことでワルシャワという地域と関わりを持ち、郷土料理とは何かを考え、そこから我々を生かしてくれている地球への気づきへと導いていった素晴らしいプロジェクト「ブレッド&ピッツァ・ベイキング・オーブン・プロジェクト」です。またマーティン・カルトヴァッサーも面白い例だと思います。彼は公共スペースのデザインや社会問題などをテーマに活動しているアーティストですが、当初は⼀体どのようなプロジェクトに展開していくのか、正直見当もつきませんでした。そんな中、彼が最初に行ったのはCCAスタッフらへのインタビュー。「この場所に足りないものは何か」という問いへの答えを元に、彼はCCAのエントランススペースに様々な娯楽施設を造り上げるプロジェクト「エルドラド・サマー・リゾート」を実現していきます。プールやオープンエアシアターなど様々なレクリエーション施設が設置された空間(プラットフォーム)は、スタッフや来館者が実際に体感できる場を与えてくれました。使用された部材のほとんどは施設から出る展覧会廃棄物などが使用され、素晴らしい空間の活性化が実現したのです。

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Platforms, Folke Köbberling & Martin Kaltwasser, 2009, Photo: MG, Courtesy of CCA Ujazdowski Castle and the artists

「レジデンシーはメディウム」とはとても興味深い洞察だと思います。
トランス・アーティスツ
によると、世界には現在、1000以上ものレジデンスプログラムが存在すると⾔われています。何故レジデンスという仕組みは増え続けていると思われますか?また何故レジデンスは必要なのでしょうか?

人がある場所から別の場所に移動し、その過程で多様な思考の文脈を考え出すことは、土地を訪れる側にとっても、また迎える側にとっても多くの有益な財産を生み出していくからではないかと考えます。CCAに滞在する作家は皆、自身の視点を持って訪れますが、それが全く違う視座であるが故に彼らは我々が普段気づかない事柄に気づき、そして我々にもその気づきを与えてくれるのです。また作家にとっても、レジデンスの与えてくれる時間と空間は新たな事物を創り出す良い機会になります。そこにはいつもの日常から離れ、プロジェクトだけに集中できる環境があります。それが例え海外でなく、ローカルなレジデンスであっても同じような効果を果たしてくれるのだと思います。与えられたその貴重な時間は自分自身を内省し、自身の制作の習慣を見つめ直すメディウムとなります。今回、自分がレジデント側として滞在することで改めてそれを実感しました。

レジデンスプログラムはまた境界をも超えていくきっかけにもなるのでしょうか?

確かにそうかもしれません。アートの実践方法は様々です。レジデンシーというプラットフォームはそれを体験する全てのアーティストにとってのメディウムとなって、何らかの恩恵をもたらします。けれども、その見方やアプローチの仕方は様々で、それを通して生まれてくる形も多様です。そこに同じものは一つとして無いのではないかと思います。

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