マリアンナ・ドブコウスカ
PEOPLEText: Noriko Yamakoshi
約一ヶ月という短い期間で、精力的に美術館や美術機関を訪れ、アーティストやキュレーターと積極的に会い、京都や九州の美術機関や芸術祭の関係者とも交流したというドブコウスカ。チン↑ポムの卯城⻯太やミヤギフトシ、ヒスロム(加藤至、星野文紀、吉田祐)など、⾯談したアーティストらとはそれぞれじっくりと、時間をかけて作品のコンセプトや彼らの思考を聞く時間を持ったという。
AITにて開催したトーク「A-I-Rと都市 / 関係の実験室」に登壇するマリアンナ・ドブコウスカ氏
特にヒスロムのイベント「ヒスロム ツアー 2015」に参加し、アーティストのプレゼンテーションを見たことは強く印象に残った様子。AITのキュレーター、堀内奈穂⼦はその体験をこう分析する。『実際にヒスロムのパフォーマンス映像を見たりトークを聞くことができ、建築現場や資材に介⼊しながら行われるパフォーマンスを通して、彼らが眺める近年の都市計画や景観の移り変わりについて学べたことが、強く印象に残ったようです。これは、彼女自身がポーランドで行なっている、社会主義リアリズム(※)建築の内観が残るかつての帽子屋『ポルトス』の空間を使い、建築家やアーティストと共に空間を再活性化させる実践とも共通する部分があったのかもしれません。』
※ 社会主義国で公式とされた芸術様式。ソヴィエト連邦において「⾰命的発展」に寄与する唯⼀の芸術様式として1934年に公式化され、他の社会主義国ならびに非社会主義国内の⼀部にも影響を与えた。
XYZ collectiveで行われた「Japanese Nightingale Doesn’t Sing At Night」展にてミヤギ氏に話を聞くドブコウスカ氏
園子温氏の個展「ひそひそ星」にて卯城竜太(Chim↑Pom)に話を聞くドブコウスカ氏
堀内氏はまた、AITが10年以上に渡ってレジデンスプログラム続けてきたからこそ見えてきた新たなキーワードについてこう語る。『一つは再招聘です。過去に滞在した多くのアーティストやキュレーターが、日本に再滞在し、展覧会やプロジェクトの企画や参加を行っています。そうしたことが近年とても多くなっています。2012年にはバッカーズ・ファンデーションで過去に招聘した10名のアーティストを再招聘して、原美術館で展覧会を実施しました。これは彼らが初めて東京に滞在した際に生まれた表現と、そうした経験を元に発展していった作品を検証しながら、思考や表現の変化を眺めることを可能にした機会でした。一度限りの関係性ではなく、情報と意見交換・学びの場を通して、長い関係性を築くことが重要です。二つ目は、招聘する専門分野の多様化です。近年はアーティストやキュレーターのみではなく、ライターを招聘するなど、専門分野を広げることで新たな関係性が生まれています。イギリスを拠点とする美術雑誌「フリーズ」の編集者クリスティー・ラングを招聘した際は、帰国後に彼女が「フリーズ」に書いた日本の現代美術の記事が掲載されるという成果があったのみでなく、日本を拠点にするライターが「フリーズ」に寄稿するなど、展覧会やプロジェクトとはまた異なる新たな形での情報発信が行われました。今後は、建築家、デザイナーなども招聘候補にすることで、日本のアーティストやオーディエンスが様々な表現の思考・実践を知る場を創造したいと考えています。』
インタビューでドブコウスカ氏も語っているように、レジデンスプログラムによって導き出される形は様々だ。まず自分自身と心置きなく親密になれる時間と空間を持ち、そうした内省と行動のプロセスを経て、その後何年もかけて、それぞれの考え方やアプローチを醸造し熟成を促していくのが、レジデンスプログラムの持つ力なのかもしれない。レジデンシーというプラットフォームは、これからも更に進化を遂げていくだろう。そのメディウムを体験した後に慣れ親しんだ場所に戻り、あるいは新天地で、おのおのが実践を重ねる先に生まれるプロジェクトや作品に、これからも多いに期待したい。
Text: Noriko Yamakoshi