マリアンナ・ドブコウスカ
PEOPLEText: Noriko Yamakoshi
そこでアーティスト・イン・レジデンスのプログラムキュレーターとして活動していらっしゃるのですね。これまでどのようなプロジェクトを企画、コーディネーションされてきたのでしょうか。
私が働くプログラム「A-I-R ラボラトリー」は2003年に設立され、年間30人余りのレジデントを迎えています。私は2004年から従事していますが、これまでの11年間に及ぶ実践と経験は、このレジデンスプログラムに深く根付いているように思います。ひとつのプロジェクトは二年間にも及ぶこともあり、これまで100⼈以上もの国内外アーティストやデザイナーらと関わってきました。
Rooted Design for Routed Living project, 2008-2010, (from left to right) Trond Nicolas Perry, Oscar Magnus Narud, Photo: Nicolas Grospierre, Courtesy of CCA Ujazdowski Castle and the artists
例えばノルウェーとポーランドのデザイナーによる共同プロジェクト「ルーティド・デザイン・フォー・ルーティド・リビング」では、2008年から二年に渡りプロダクションとリサーチ作業を重ねながら互いの国のマテリアルカルチャー(物質文化)の考察を試みました。伝統に根ざしたデザインの世界にどのような新たな選択肢を示せるのか、プロジェクトは問題提議をしながら新たなオブジェクトを構築していくものでした。
公園が隣接するワルシャワの都市中心部に位置するCCAのパートナーとなったのは、ノルウェー西海岸の村、デールに拠点をおく機関北欧アーティストセンター・デール(NKD)です。地域性も文化も全く違う双方の国と施設において時間と空間を与えられた参加デザイナーは、レジデント生活を通してそれぞれの文化の本質を探りながら、具体的な戦略やテクニックを編み出していきました。2010年には、制作されたプロダクトのプレゼンテーションの場として展覧会を開催、本も出版されました。制作されたデザインは作家に属し、CCAは期間中に制作されたプロトタイプを保管しています。また、生み出されたデザインは家具メーカーにプレゼンされ、実際に採用されるという実績も残しています。
Tropolicalia, Christoph Draeger, 2007, Courtesy of CCA Ujazdowski Castle and the artist
もう一つ、とても記憶に残っているプロジェクトの一つが、スイス出身のアーティスト、クリストフ・ドレガーによる「Hヒッピー・フィルム:トロポリカリア」です。作家は2007年の夏、三ヶ月に渡ってセンターに滞在しましたが、そこで注力したのが、自身の三部作映像作品の完結編でした。作品の中で作家は架空のヒッピームーブメント「トロポリカリア」を考え出します。
これは1967年アメリカを中心に世界に流布した文化・社会ムーブメント「サマー・オブ・ラブ」の皮肉を込めたリメイクでもあり、また60年代後半、ブラジルで音楽を中心に現代美術や演劇、映画を含むカウンターカルチャームーブメントとして起きた「トロピカリア」も彷彿とさせるものです。
プロジェクトではまた、滞在当時ワルシャワで行なわれていた軍のパレードに合わせてダウンタウンで平和デモを行ったり、大掛かりな⾳楽フェスの開催やサイケデリッククラブをオープンするなど、コミュニティを積極的に巻き込むものでもありました。これら全ての活動は記録され、DVDと本の制作や展覧会も開催しています。アイディアの段階から実際の制作、ポストプロダクションから試写会・展覧会まで、その全てがワルシャワで⾏われた、広範囲にわたるプロジェクトの一つです。
また近年のプロジェクトのひとつに、アメリカ⼈アーティスト、ジェシー・アーロン・グリーンによる「ジ・アライズ=連合国」があります。
The Allies, Jesse Aron Green, 2011, Photo: Michał Grochowiak, Courtesy of CCA Ujazdowski Castle and the artist
ジェシー・アーロン・グリーンによる滞在制作作品発表の場として、2011年7月~9月、CCAにて開催された展覧会。物語は1917年、第一次世界大戦下に起きたカンブレーの戦いに基づき、再演する形で描かれている。作品の重要な鍵となっているのが、当時の戦時下を生きた精神分析家のウィルフレッド・ビオン。集団力学理論家の第一⼈者でもある。グリーンは「アートリット」のインタビューにおいて、暴力や戦争、精神分析学への洞察がこの作品制作の源となっているとし、同時にそれは一人の作家として、これまでの自身の創作活動と現代の理論史をどう関係させていくのかといった「関係性の美学」への考察にも端を発しているのかも知れないと語っている。
2009年の終わりから2010年にかけて三ヶ月滞在した作家とのコラボレーションで生まれたこのプロジェクトは、予算も時間も本当に限られた中での作業だったにも関わらず、素晴らしい恊働で進める事ができた一例です。作品には多くの⼈が登場しますが、プロもアマチュアも混在する中でワークショップなども盛り込んで行われたキャスティング・オーディション作業は、あたかもある種のコミュニティを造り上げていくようなプロセスで、とても複雑で時間のかかるものでした。
The Allies, Jesse Aron Green, 2011, Photo: Michał Grochowiak, Courtesy of CCA Ujazdowski Castle and the artist
しかし同時に、ワルシャワの歴史的な劇場、ワルシャワ大劇場が会場を無料で貸し出してくれたり、素晴らしいシネマトグラファー(映画カメラマン)らが無料で撮影と機材を申し出てくれたりと、様々な⼈や団体が⽀援を提供してくれたプロジェクトでもありました。私はこれをある種の「ラブ・プロジェクト」だったと感じています。アーティストとスタッフ、協力してくれた関係者の間には「プロジェクトを前に進めるんだ」という絶え間ないポジティブなエネルギーが満ちていました。だからこそ素晴らしい結果を導けたのだと思います。
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