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札幌美術展「アクア・ライン – 岸辺に沿った美術」

HAPPENINGText: Ayumi Yakura

水をテーマにした美術展は世界に溢れているが、その中でも現在、札幌芸術の森美術館では、水がつくり出す「線」に着目し、日本画、油彩画、写真、立体作品、書、インスタレーションなど、異なるジャンルで活躍するアーティスト14名の作品を集めた「札幌美術展 アクア・ライン Art along the shore」を開催している。

副題の「Art along the shore」は「岸辺に沿った美術」を意味している。直接的に水を表現しただけの作品ではなく、水を発想の源とした作品や、水へ想像力を寄り添わせた作品が集められ、現代の北海道から厳選されたアーティストによって、展示空間が瑞々しく満たされていた。

鑑賞者は、水という1本の身近なテーマに身を委ねながら、14通りの水の線を流れるように巡り、鑑賞ルールを持たない現代アートをリラックスして楽しむことができる。そして、さりげなく計算された展示の導線や、作品に添えられた解説パネルの文章表現から、澄んだ美意識を感じられる美術展だ。

札幌美術展 アクア・ライン
「SNOWFLAKE」国松希根太, 2013年 Photo: © 山岸せいじ

奥へ足を進めると、国松希根太による「SNOWFLAKE」が厳かに屹立している。黒いアクリル板の中心に、高さ2.55mの幹が立ち、天から刺す光が、樹皮に雫のような陰影を落としている。上半分は白く剥き出され、凍てつく氷柱のように彫り出された先端を見上げると、所々でスワロフスキーが光を乱反射している。

幹を囲む6つの木彫は氷山のようだ。一周しながら各々の稜線を観察すると、素材の有るがままと対話しながら彫刻するかのような、作家の研ぎ澄まされた感性を感じる。上から見下ろすと、顕微鏡で雪の結晶を覗くような配置だ。横から見渡せば、双眼鏡で海の氷山を望むようでもある。実像と虚像の境界に立ち、自らの現在地を俯瞰でイメージできる作品だ。

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「海抜ゼロメートル/石狩低地帯」山田良, 2013年  Photo: © 山岸せいじ

山田良の「海抜ゼロメートル/石狩低地帯」は、高さ2m・全長24.58mもの桟橋だ。階段から昇ると、組まれた細い廃材から、ギシギシと不穏な音がする。人によっては足のすくむ高さだが、道幅は60cmしかなく、掴まる手すりも、寄りかかる壁もないので、身の危険を感じながら綱渡りのように歩いた。

40〜100万年前、この地帯ではおよそ地上2mに海水面があったという。その高さを不安定な状態で渡ることによって、不在となった海水面を想起できる体感型の作品だ。人が橋を架けるのは、そこに繋ぎたい何かがあるからだろう。昇らない場合は、水深2mの床から海面を見上げるという視覚的体感も可能だ。

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「水への返礼。水に対する私のエンターテインメント」端聡, 2013年 Photo: © 山岸せいじ

展示導線の中心部には、端聡による「水への返礼。水に対する私のエンターテインメント」が設置されている。彼は「札幌国際芸術祭2014」の地域ディレクターとして注目されているが、その活動の手段として深読みすることを止めたとき、作品を流れる純粋な喜びに胸を打たれるだろう。

まずは全体像から、過去として未来を見ているかのような印象を受けた。薄暗い一角に、シンプルな鉄の箱が16個並んでいる。蛇口からは白濁した水が流れ、管の中で曲線を辿りながら、箱の上を満たして循環している。水面には、水にまつわる様々な映像が、様々な音とともに投影され、4分40秒のサイクルで白く静まりかえる。

作品の着想は「水は記憶する力を持っている」という、仮説段階の学説から得られたという。もしも水が記憶するならば、万物の源である水への謝意や敬意を、複合的な表現で水面に流し込むことによって、水に良い記憶を循環させることができるのかもしれない。その水への純粋な謝意や一途な敬意は、あまりに素直で無防備にも感じられるが、芸術表現においてはそれこそが強さではないだろうか。

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