岡本光博
PEOPLEText: Aya Shomura
社会問題、著作権問題などを扱う作家のなかでも、突出して真っ向勝負を挑んでいるのが岡本光博氏だ。一見するとクスリと笑ってしまう作品、例えばアートフェア札幌 2015にもコンテンポラリーアートを取扱うギャラリー「eitoeiko」(エイトエイコ)から出品していた「モレシャン」などがあるが、その作品のコンセプトを知るとなんとも言えない気持ちになる。彼の作品には“際どさ”を越えた、思わず口を噤んでしまいそうな背景があり、観る者へ衝撃を与えることも少なくない。2016年も目が離せない岡本氏に、数年前に話題を呼んだ作品から最新作、プロジェクトまでの話を聞いた。
まずは自己紹介をお願いします。
1968年6月9日京都生まれです。これまでインドやドイツなど色々な国の滞在制作プログラムに参加したり、時には自腹で海外で制作してきました。アーティストとして活動を始めて26年、そしてディレクターも務める京都のギャラリー KUNST ARZT(クンスト・アルツト)での活動は4年目です。
なぜアーティストという道をお選びになったのでしょうか?
見えていないことを見せることができるからです。社会的な意味でも、スピリチュアルな意味でもです。
「バッタもん」2007年, 高級ブランド生地を縫製したもの
滋賀大学大学院を修了後、ニューヨークのアート・ステューデンツ・リーグへ在籍なさっていますが、ニューヨークとその美術学校を選んだ理由をお聞かせ下さい。
日本でバイトして作家活動するなら本場でバイトして活動しようと。アート・ステューデンツ・リーグは“ビザ発行所”であると聞いて…。悪口のように聞こえるかもしれませんが、私のようなマイノリティーの黄色人種で、芸大を出てるわけでも、何かのコネがあるわけでもない人間にもマンハッタンで活動するチャンスを与えてくれたのは事実です。しかもソル・ルウィットさんの凄さも知らずにミニマル・グリッドのマルチプル制作とかオルデンバーグの事務所にあるソルさんの彫刻のメンテナンスを手伝わせてもらったりしたこともニューヨークでしか経験できなかったことでした。
右:「バッタもん」, 左:「バッタもんのバッタもん」朝日新聞2011年12月1日の記事をキャンバスにプリント, 展覧会「うつわ と うつし」, 京都芸術センター, 2015年
2010年の神戸ファッション美術館での展覧会に出品したものの会期中に撤去された作品「バッタもん」。「海賊品、模倣品を助長する」としてクレームを申し出たルイ・ヴィトン社が、その後2011年にバッタの形に縫製した(イギリス人デザイナーによる)オブジェを発表したというオチまでありました。この一件をどのように感じていらっしゃいますか?もしくは分析なさっているでしょうか?
「私のをダメ出ししておいて、被せてくるんだ」と驚きました。どうせなら財力を駆使して、私の「バッタもん」を完全に消し去るほどの凄いものを見せてほしかったですね。これでは成仏できないなと。でもそれは私の個人的な意見なので、2015年12月の京都芸術センターでの展示「うつわ と うつし」では、鑑賞者に判断してもらおうと、ルイ・ヴィトン社製のバッタのイメージ(朝日新聞の記事を直接キャンバスにプリント)と私の「バッタもん」を並べました。
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