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若手アーティストのための国立美術館賞 2011

HAPPENINGText: Kiyohide Hayashi

今回の賞を受賞したのはシプリアン・ガイヤールだったが、政治的なテーマによって美術関係者のみを引き寄せるのではなく、共有可能なイメージによって様々な人々を日常的には扱い難いテーマへと近付けてもいた。実際に展覧会来場者による一般投票でも彼の作品は最多票を集め、そこでも賞を獲得していることは何よりもその証拠だろう。背景知識を持たなくとも多くの人々を引き寄せるように作品そのものに魅力があり、それが表面的な興味を引き起こすだけに留まらず、作品の背景にある「歴史」や「欲望」といった様々な物事に気付かせる点において、シプリアン・ガイヤールの受賞に対して異論を挟む余地はないだろう。

そもそもノミネートされたアーティストの作品を披露する以上のコンセプトを持たない展示について、その内容を語るのはナンセンスなのかもしれない。しかし最後に展示と本賞について幾つか気になったことを補足的に記しておきたい。

展示の全体の印象としては、クララ・リーデンの作品が控えめに美術館の中庭にはみ出した以外、各アーティストは同じ条件で作品を見せており、それゆえに作品の良さが引き出されるというよりも表層の比較となってしまい、コンテストの様相を呈していた。また個々の作品の高い質を感じることができる一方で、展示全体からは既視感や未来の無さを強烈に感じられた。しかし、これらは展示だけの問題ではない。何より気になるのは、賞の対象者を40歳以下と規定しながらも、後身や若手育成を意図するわけでないという公式ホームページに書かれた記述である。つまり、本賞は彼らの将来性や可能性を汲み取るわけでなく、ただ40歳以下の完成されたアーティストに栄誉を与えると読み取ることもできるのだ。

少なくとも展示を見る限り、どの候補者からも若手というよりも既に完成されたアーティストである印象を強く受けた。また「若さ」とは現代美術においては「新しさ」とも同義語と言ってよいが、最も新しい流れを捉えることができるはずの本賞が今回それを意識していたか大いに疑問が残る。実際に他国の現代美術における代表的な賞と比べると対象とする層が若いだけに、本賞が新しいアートの動きを捉える可能性は非常に高いはずなのである。

例えば、イギリスのターナー賞は50歳以下のアーティストを対象としており(ただしイギリス国籍の者に限る)、アメリカのヒューゴ・ボス賞にいたっては年齢制限を取っておらず(国籍は関係なし)、そのどちらも意識的に若手のアーティストや新しい動きを取り上げるものではない。

いずれにせよ、新しさや可能性を追求しない賞の授与において年齢制限は如何なる意味をもつのだろうか。今回はこのような矛盾をはらんでいるがゆえに、明確なビジョンを展覧会から感じることはできなかった。だからこそ2013年の本賞では、未来や可能性を感じさせる若手アーティストを是非とも取り上げてほしいと願うばかりである。

若手アーティストのための国立美術館賞(Preis der Nationalgalerie für junge Kunst)
会期:2011年9月9日~2012年1月8日
会場:ハンブルガーバンホフ現代美術館
住所:Invalidenstraße 50-51, 10557 Berlin, Germany
入場料:一般12ユーロ、学生6ユーロ
http://www.hamburgerbahnhof.de

Text: Kiyohide Hayashi

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