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「ベースド・イン・ベルリン」展

HAPPENINGText: Kiyohide Hayashi

現代アートに関わる者にとってベルリンは憧れの街であったはずだ。少なくとも私にとってベルリンは住む以前からアートの街という印象があり、そのイメージは実際に住んでからも損なわれることはなかった。しかし最近の現代アートとこの街の関係は決して理想的なものではない。このような状況の中で、当地で開催されるベルリンの若手アーティストを紹介する大規模な展覧会は大きな波紋を投げかけることとなった。今回はまず現在のベルリンのアートシーンの状況を説明してから展覧会の内容に触れてみたいと思う。

ベースド・イン・ベルリン
based in Berlin Monbijoupark メイン会場風景 Photo: Amin Akhtar

2010年秋、数年前から感じられていた不況の影響がベルリンに影を落とす出来事があった。ここ数年いくつかの小規模なギャラリーが閉廊するのは見聞きしていたが、大手ギャラリーが撤退することはなかった。しかしダミアン・ハーストオノ・ヨーコなどの展覧会を当地で開催してきたハウンチ・オブ・ヴェニソンがベルリンのスペースを閉じ、ニューヨークとロンドンに営業を集中するという。

そして更に追い討ちをかけるようなニュースが飛び込む。ベルリンで開催されていたアート・メッセ「アートフォーラム・ベルリン」が本年は中止されるという。毎年秋に開催されていたアート・メッセは世界各地から多くの美術関係者を集め、公式、非公式に関わらず多くの平行イベントが開催されていた。当地で開催される最大規模の現代アートのイベントだけに、ギャラリー関係者だけでなくアートシーン全体に落胆が広がっている。

一方でここでのアートシーンの問題はギャラリーに留まらない。ベルリンには現代アートを取り扱うハンブルガー・バンホフ美術館の他に古典やルネッサンスや近代などの作品を扱う国立の美術館が多数ある。2010年夏まで各美術館は毎週木曜日に無料入場可能な時間帯を設定していた。これは多くのアーティストにとって展覧会を見る貴重な機会となっていただろう。しかし2010年秋より無料入場が可能な時間は廃止され、お金を払わずに傑出した作品を見る機会は失われてしまった。

上記の出来事は美術館やギャラリーの問題であるが、ベルリンの生活面においてはアトリエや住宅などの家賃の上昇、また開発などに影響を受けた使用可能なスペースの減少により、アーティストの制作を妨げると同時に生活をも苦しめている。つまりここでの現代アートの状況はかつてなく悪くなったといえるだろう。このような状況で本展覧会はベルリンをテーマにしているため厳しい反応を招くことになってしまった。

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based in Berlin Monbijoupark メイン会場風景 Photo: Amin Akhtar

前置きが長くなってしまったが本題に戻ろう。そもそも今回の展覧会はベルリン特別市長クラウス・ヴォーヴェライトの指揮により「ライストゥングスシャウ(発表会)」というタイトルの下で企画された公的なアート・プロジェクトであった。2010年秋に発表されたこの企画は、ベルリンの若手アーティストを紹介する大規模な展示であり、今ここで起こりつつある新たなアート・ムーブメントを反映するものでもあった。

しかしアートシーンが厳しい状況にある中、多額な公的な資金(ツァイト・オンラインによれば160万ユーロ、約2億円ほど)を費やす大プロジェクトは問題を呼び込む。2011年1月にインターネット上ではクラウス氏への抗議状が発表され、多くの賛同アーティストの名が連なっていた。「HABEN UND BRAUCHEN〈あるものと必要なもの〉」と書かれた書面には、以下の項目について厳しい非難が寄せられている。ベルリンのアートの総括が若手アーティストに限られてしまうこと。そして本展に使用される会場の建築コンペが不透明であることだった。

こうした多くの議論を生み出しながら、展示企画は「ベースド・イン・ベルリン」と名前を変え、展示形式も改まり、ハンブルガー・バンホフ美術館KW(クンスト・ヴェルケ)、ベルリニッシュ・ギャラリーn.b.k.(ノイアー・ベルリーナー・クンストフェアアイン)といった公立私立の既存の美術館や美術機関を利用し、そしてかつての美術学校(ヴァイセンゼー・クンストホッフシューレ)の敷地を使用する展示へと変化を遂げていく。

ただし展覧会のテーマについては、ベルリンで活動する若手のアーティストの作品を展示するということに変わりはなかった。このように今回の企画はテーマがあるとはいえ、対外的に強く打ち出すものではなく、非常に大枠でしか括れないともいえるが、個人的に気になったアーティストや、彼らの作品を通じて感じられた動きをレポート形式で書きたいと思う。

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