マックス・ハトラー

PEOPLEText: Mariko Takei

11月1日より上映が始まった今年のDOTMOV FESTIVAL 2010。セレクトされた優秀作品の中から、ロンドンを拠点に活躍するアーティストのマックス・ハトラーをフィーチャー。どこまでも永遠に続く異なる2つの世界を展開させた2作品ともがセレクトされた。その内のひとつ「1925 aka Hell」を今月号のカバーとしても展開。DOTMOV選出作についてなど熱く語って頂いた。

マックス・ハトラー
Photo: Miki Takahira

まず、自己紹介をお願いします。

マックス・ハトラー。アーティストであり、主にアニメーションの監督として活動し、映像インスタレーション、ショートフィルム、オーディオビジュアル・パフォーマンスという形態の作品を手掛けています。動画の中の抽象表現と比喩表現の中間にある空間、伝統的な映画の物語の制約から解放されたストーリーが展開する空間というものに興味があります。

メディアアーティスト/映像作家として活動するようになった経緯を教えて下さい。

僕はそんなに映画に夢中になったことはなくて、映画といえば、長い間、物語のある実写ドラマとしてしか知らなかったんです。アニメーションにも興味がなく、”カートゥーン”とよばれるような、面白おかしく描いたような映画しか経験がなかったんです。ビジュアルアート、設計美学、時間ベースの音と音楽メディアなど遠回りしてようやく映像に辿り着きました。子供の頃は、いつも絵を描いていましたね。音楽一家に育ち、ティーンエイジの頃に、コンピューターグラフィックスやアニメーションを少しかじりながら、音楽を制作するのにコンピューターを使用するようになりました。こうした分野をそれぞれが異なるものとして捉えていたので、アニメーション映像を通じることで組み合わせる必要があることに気づくのに少し時間がかかりました。そのことを初めにゴールドスミス・カレッジで学ぶようになりましたが、まとまった表現ができるようになったのは、ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)の大学院でアニメーションを修了してからですね。

シフトの読者にはすでにお馴染みの作品「コリジョン」(2005)がDOTMOV FESTIVAL 2005で選出されたことで記憶している方も多いかと思います。そして、今回は応募した2作品が今年のDOTMOV FESITVALでセレクトされました。コンセプトなど含め、その2作品のご紹介ください。

1923 aka Heaven」と「1925 aka Hell」は、フランス人のアウトサイダー・アーティスト、オーギュスタン・ルサージュが手掛ける複雑なパターンのペインティングをベースにしています。もっと細かく言うと、彼が1923年と1925年に手掛けた「ア・シンボリック・コンポジション・オブ・ザ・スピリチュアル・ワールド」(A symbolic Composition of the Spiritual World)という作品です。パターンで表現することと抽象化すること、またアイディアの抽象化ということで僕を魅了したルサージュの作品は、美、精神、永遠性、時間の循環性についてのアイディアを探る上で実りのあるスタートポイントとなりました。2方向のプロジェクションでのインスタレーションするというのが、二つのループを見る理想的な環境ですね。真っ暗な部屋で2つの向かい合う壁で継続的に再生されることで、2つ同時に精神世界の異なるビジョンが展開されます。それらが物理的に同じスペースに存在することで、音と発せられる光が混ざり合い、オーバーラップし、実体験のような環境をつくりだします。

2010年2月にデンマークで行われた「アニメーション・ワークショップ」で5日間かけて2つのループ作品を監督しました。制作は、学生のアニメーターとコンピューターグラフィックスのアーティストでクルーを組んで行いました。インスピレーションとしてアウトサイダーアートに目を向けることで、オーギュスタン・ルサージュと出会いました。ルサージュの作品を見てすぐに、彼のシンメトリーや反復に対するこだわりや、アートに対するスピリチュアルな理解ということにハマりましたね。一人の炭坑作業員だったルサージュが、内なる声にペインターになるように言われたことからアーティストに転向し、レオナルド・ダ・ヴィンチやティアナのアポロニウスなどの明確な霊的な導きのもとでしか絵を描くことがなかったそうです。パターンや自分自身を鏡映しにすることが大好きなので、僕はルサージュの精神世界のビジョンを現代的な動きのあるイメージに変換するというアイディアが気に入り、シンメトリーという特徴にこだわりつつ、音とイメージと動きを使い、スピリチュアルなセンスを高めようと思いました。ループというアイディアは、タブロー・ヴィヴァン(活人画)としても、ルサージュの精神的ビジョンに暗黙にある、終わりのないサイクルの永遠性の表現としても理にかなったものになりました。

全ての作品は、不安定な出発点から最終的に作品になるまでの自分のやり方みたいなものを感じながら制作するところがあります。アニメ映像はゆっくりとした行程を踏むので、ストーリーボードなどを通さないで、自由に変更可能な状態をキープして、有機的に作品を制作するのが好きなんです。そこでこのプロジェクトでは、2つの学生グループが同じ作業をそれぞれ同時に行うことが目的としてありました。それぞれのグループにルサージュの絵を与え、他のグループの人とは話し合わないように伝えました。ルサージュに関して2つの全く異なる見解を表現したかったのです。ルサージュの1923年の絵にはパースというヒントがあったので、それに従うのは自然な流れで、永遠に上昇するループ作品へと展開しました。制作方法のひとつには、動く2Dアニメを学生が制作した3D形状へマッピングするというものがありました。そうすることで、ルサージュのビジョンが未来的で瞑想的で高まっていくループへと変わり、フリッツ・ラングの映画「メトロポリス」や、コンピューターアニメのパイオニア、ジョン・ホイットニーによるサイケデリック映画、1982年のSF映画「トロン」やDMTなどの幻覚剤を彷彿とさせるものとなりました。なので、オルタナティブなタイトルということで「1923 aka Heaven」としました。「1925 aka Hell」については、ルサージュの絵を分割して、連続した壁のシリーズとして重ねていくことから始めました。ルサージュのパターンを動きのあるパーツやメカニズム、見るものが必ず通過するドアなどにしていくのは当然のことと思えましたから。この作品はより暗さのある空間、ユングとH.R.ギーガーの中間にあるような延々に続く精神世界、古代エジプトのお墓とゲーム「トゥームレイダー」(1996)を彷彿とさせるものになり、タイトルは「1925 aka Hell」としました。

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