サラウンド・ガーデン — 響きあう音とカラダ

HAPPENINGText: Fumi Hirota

メディアアートや情報芸術の大規模なインスタレーション、パフォーミングアーツの公演をはじめとし、実験的な試みを続ける山口情報芸術センター(YCAM)は、その教育普及の分野でも、特徴的な活動をおこなっている。展覧会や公演への深い理解を促すギャラリーツアーなどの企画のほか、「メディア」「社会」「身体」という独自のキーワードを打ち出し、オリジナルのワークショップを開発している。夏休み期間中に多くの美術館や博物館で開催されているワークショップ。ここでは、情報芸術への洞察や、身体を実践的に使うYCAMの企画について紹介する。

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ワークショップ「walking around surround」(2008)

YCAMで2006年より継続的に開催されている「walking around surround」は、専用の教育ツールを使い、「音を聞くこと」について捉え直すワークショップである。音を聞く、音が聞こえる仕組みをレクチャーで学んだうえで、「音と空間」に着目した様々な体験をしていく。目隠しをして環境音や残響、反響などを手がかりに歩く「目隠しツアー」、8個のワイヤレススピーカーを空間に配置する「空間のコンポジション」、そして最後には音の種類、スピーカーの配置、音のタイミングをスコアにし、音による空間と時間軸を参加者がつくって発表する。こうした一連のプログラムを通し、機械の振動、空気の伝播、聴覚の構造などの音が聞こえる過程、そして環境音や人工音などの様々な音について考えていくのである。それは、音が放たれ、隅々まで広がり、私たちの身体へと届くイメージを想像する特別な機会といえるだろう。

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左:レクチャーの様子 右:目隠しツアー

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ワイヤレススピーカーを自由に配置し、音の変化を体験する

こうしたワークショップをYCAMが開発するのは、電子音響による表現を情報芸術の豊かな可能性と捉えていることにある。

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オーディオビジュアル・インスタレーション 大友良英+木村友紀+ベネディクト・ドリュー+平川紀道+石川 高+一楽儀光+ジム・オルーク+カヒミ・カリィ+Sachiko M+アクセル・ドゥナー+マーティン・ブランドルマイヤー「quartets」(「大友良英 / ENSEMBLES」展、2008)

造形物をはじめとする視覚的な表現のみならず、聴覚によって感じられる表現に注目し、YCAMでは、これまでにもオーディオビジュアル・インスタレーションやサウンド・インスタレーション、インスタレーティブ・コンサートなどの大規模な作品を展示、公演している。これまでの美術にはなかったメディアアートにおける空間性や時間性を、音響表現として巧みに形づくっているのである。

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