第59回 ヴェネツィア・ビエンナーレ
HAPPENINGText: Ilaria Peretti
何もせずに見るだけの近年のテクノロジーや没入型の体験。加えて、サイボーグの美学は、身体について語る別の方法となり始めているが、ステレオタイプの境界に対して圧力をかけてもいる。ミレ・リーの《Endless House: Holes and Drips》(2022年)の有機的なインスタレーションのような想像上の技術的パペットが、私たちの体の強さや筋肉や肌の脆弱さを、見る人に思い起こさせる。ついには、身体は同時に政治的でもある。植民地主義の長く続いた波や人種的先入観、現在も続いている境界線を犯す行為を語りかけ、ノア・デイビスとサンドラ・バスケス・デ・ラ・オラの作品によって呼び起こされている。
Endless House: Holes and Drips 2022, Mire Lee, Photo: Roberto Marossi
典型的なジェンダー批評、黒人研究、ラディカルエコロジーの方法論とツールとの間で、展示会全体で、うまく構成されているが、個人的にはかなり表面上で、ほとんどが理論の聖域で、形成された主題に十分に探求されていないままであるように思われる。
French Pavilion, Les rêves n’ont pas de titre / Dreams have no titles, Zineb Sedira, Photo: Marco Cappelletti
今年、多くの興味深いアーティストたちがナショナル・パビリオンに参加しているが、いくつかのアーティストは、コンテンツやキュラトリアルチョイスを観衆にとりわけ注意をとどめていた。ベルギー館のフランシス・アリスは、子どもの遊びや彼らの私物化された公共のスペースに捧げたビデオのシリーズ。フランス館のジネブ・セディラは、フィクションとリアリティー、個人的な記憶と集団記憶の境界線を曖昧にした映画スタジオを複製している。日本館のダムタイプは、ポスト真実・リミナルスペースとしての現代について熟考している。イタリア館のジャン・マリア・トサッティによる色鮮やかで心に感じさせる展示は、イタリア産業の奇跡の発展と衰退を追求している。そして最後に、国別の金獅子賞に英国のソニア・ボイス。幾何学模様と動画の空間の中で、黒人系イギリス人ボーカリストたちによるサウンドに浸らせてくれる。
第59回ヴェネツィア・ビエンナーレ
会期:2022年4月23日(土)〜11月27日(日)
会場:ヴェネツィア市内
https://www.labiennale.org
Text: Ilaria Peretti
Translation: Moeko Noguchi
Photos: Courtesy of © La Biennale di Venezia 2022