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デイヴィッド・ホックニー展

HAPPENINGText: Alma Reyes

絵画的風景を「見る」ことに対する鋭い洞察力で称賛を受けるデイヴィッド・ホックニーは、今日、世界でも屈指の現代アーティストとしてその名を知られている。今なお芸術の世界を探求し続けている現在86歳のホックニーの表現スタイルは、絵画、スケッチ、版画、エッチング、水彩画、写真と幅広い。また、キャンバス、紙パルプ、写真プリント、ファックス、印刷機、コンピューターアプリケーションからiPhone、iPadに至るまで、用いられる素材や用具は多岐にわたり、実験精神に溢れている。ホックニーはカリフォルニアの陽光に満ちた情景を描いた絵画で、国際的な脚光を浴びた。以降、日常生活のささやかな喜びやきらめきを描き出す、現実を実直に象徴する作家とみなされている。

日本では27年ぶりとなる大規模な個展「デイヴィッド・ホックニー展」が、東京都現代美術館にて11月5日まで開催されている。今回の個展では約120点の作品が展示されている。一例をご紹介しよう。色彩を豊富に用いて複数のキャンバスで構成した、壁一面を覆うほど巨大な作品。カリフォルニア、ロンドン、イースト・ヨークシャーやノルマンディーの風景から着想を得た、自然を描写した作品。他にも抽象画やコラージュ、知人の肖像画など、ホックニーの60年間のキャリアを辿れる、見応え満載の個展となっている。


「デイヴィッド・ホックニー展」展示風景、東京都現代美術館、2023年《春の到来 イースト・ヨークシャー、ウォルドゲート 2011年》より 2011年、デイヴィッド・ホックニー財団蔵 © David Hockney Photo: Alma Reyes

本展の目玉作品であり、アジアでは初公開となる油彩画《春の到来、イースト・ヨークシャー、ウォルドゲート 2011年》(2011年)は、約幅10メートル×高さ3.5メートルの大作である。iPadで描かれた大判サイズの作品12点とともに、鑑賞者を取り囲むように展示されていた。ホックニーがイースト・ヨークシャーの春の風景画に初めて取り組んだのは、2006年のことである。季節の移ろいゆく様を一枚のキャンバスでは正確に表現できないことに気づいたホックニーは、1枚の油彩画と51点のiPadを用いた作品を創作する。巨大な油彩画は自宅のスタジオで、iPadで描いた作品は戸外で制作されたものだ。戸外でホックニーは自然と交感し、12月には地表の氷を、3月には葉に注ぐ日光を、5月には木や花に射す輝かしい光を描いた。木立の風景を描いた油彩画の方が色調と線のつながりが直接的に感じられたが、ホックニーはiPadによる作品でもテクスチャーの密度、大胆な色使い、光沢を表現することに成功している。本作を鑑賞するときは十分な時間をとって、蕾、花弁、枝、樹皮の木目、水たまりの映り込みのマーク(筆跡)に着目してみよう。本作の色彩を目の前にすると、心地よい至福と活力を覚えることだろう。


「デイヴィッド・ホックニー展」展示風景、東京都現代美術館、2023年《ノルマンディーの12か月》(部分)2020-21年、作家蔵 © David Hockney Photo: Alma Reyes

次の展示室では、90メートルに及ぶiPadで描かれた作品《ノルマンディーの12か月》(2020-2021年)が、湾曲するパネルに沿って展示されており、またもや見る者を魅了する。公園を散歩するときのように作品に沿って歩けば、ホックニーが住むノルマンディーの美しい田園を連続的に描いたパノラマに没入できる。この傑作は、中世の「バイユーのタペストリー」に着想を得て制作されたものである。「バイユーのタペストリー」とは、70メートル長の薄布に毛糸で刺繍を施した刺繍画であり、ホックニーは長年に渡ってこのタペストリーに魅了されてきた。新型コロナによるロックダウンの最中、ホックニーは自然を熱心に観察し、影や消失点がないタペストリーを参考に制作をしてみたいという思いが湧いたのだ。ホックニーは印象派に近いスタイルを採用し、春の最盛期から冬が去るまでの、草木、花、空の移ろいゆく色合いを重視した。本作は、和らいだトーンの夏と冬を横長のパネルに描いた《家の辺り(夏)》(2019年)、《家の辺り(冬)》(2019年)とともに展示された。この二作品は、インクジェットで紙に印刷されている。


「デイヴィッド・ホックニー展」展示風景、東京都現代美術館、2023年《ウォーター近郊の大きな木々またはポスト写真時代の戸外制作》 2007年、テート蔵 © David Hockney Photo: Alma Reyes

ホックニーは1997年から、幼少期に親しんだヨークシャーの風景を描いた。自然ははっきりと目に見える形で、ただそこに存在している。したがって、ホックニーにとって自然光の降り注ぐ「戸外で」制作することは必然的なことだった(戸外制作とは、19世紀の印象派の画家たちの絵画スタイルを説明するときに用いられる表現である)。そのようなことを背景に出展されたのが、《ウォーター近郊の大きな木々またはポスト写真時代の戸外制作》(2007年)だ。本作は2007年に、ロンドンにあるロイヤル・アカデミー・オブ・アーツの夏の展覧会向けに制作された横幅は12メートルを超える巨大な作品だ。ホックニーはまず全景の習作を1枚描き、50枚のキャンバスを構成して制作を進めた。スタジオの壁面に一度に並べられる枚数は限られていたため、キャンバスを1枚ずつ写真に撮影し、コンピューターでモザイク画のように組み合わせて調整するという作業が繰り返された。ホックニーはキャンバスを何度もスタジオから戸外に持ち出し、色調、濃度、テクスチャーを仕上げていった。本作は春が訪れる前、ブリドリントン西部に位置するウォーター近郊の風景を描いたものだ。むき出しの木からは葉が芽吹き始めており、背景は淡いピンク色と青色で表現されている。右下に描かれた小屋は人の住居である。同展示室内では、ホックニーが6週間をかけて完成させた制作過程の動画を視聴することができる。

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