長谷川 愛
PEOPLEText: Aya Shomura
メディア芸術祭に応募しようと思ったきっかけや理由を教えて頂けますでしょうか?
メディア芸術祭では情報科学芸術大学院大学の知り合いや友人が賞を頂いていたし、私の働いていたロンドンの会社も受賞していたので、長いこと虎視眈々と狙っていました。
本作の優秀賞受賞についてはどのように感じていらっしゃいますか?時代や社会、人々の意識の変化などを感じますか?
最近の日本は内向きで「出羽の守は嫌われる」と言うけれども、外に対する興味を失うのは自滅にしか感じられません。少子高齢化のためか、文化的にも、精神的にも新陳代謝が上手くいっていない気がします。日本はまだまだ保守的で、『アートが特に政治的な批評から離れようとしているのかな?』とも感じていたので、それなのに選んで頂けたので嬉しかったです。贈賞理由に書かれてありましたが、「審査会でも議論となった」というのはある意味最高の褒め言葉ですね。議論を促すためにやっているので。この作品はインタラクティブなデバイスなどを使わないため、メディア芸術祭にしては解りにくい作品ですが、理解して下さった審査員の方が、他の審査員の方を説得して下さったのではないかと読み取りました。
「極限環境ラボホテル、石炭紀ルーム」2012 © Ai Hasegawa
作品「極限環境ラボホテル、石炭紀ルーム」もそうですが、私たちの認識や価値観を問う倫理的な作品を世に出す時に、特に注意していること、またはご自身に課している「クリアすべき条件」などはありますか?
この作品はイルカの作品ほど既存の価値観について攻撃的なことは提案せず、「できるだけリアリティー重視で、人の共感を得る、価値観をゆさぶるために、どのような表現、手段をとるか」を意識しました。それから「有用な議論を多くの人とするにはどうしたらいいのか、中立であるということはどういうことか?」についても考えました。
この作品で一番の収穫は「誰にでも色眼鏡(バイアス)はかかっている、科学者ですら」ということです。本当に色々なレイヤーの色眼鏡が重なっていて、一つの眼鏡に気づいても他の眼鏡に気づけないことが多い。そしてそれは他人に指摘されないとなかなか気づけない、だから議論が必要なのかもしれません。
「シェアードベイビー」2011 © Ai Hasegawa
作品制作やそのための研究以外の時間は、どのようなことをなさっていますか?
基本、実際に手を動かす制作以外では、リサーチに時間をとります。本もネットも漫画も映画もアニメもイベントへ行くのも、旅行に行くのもレストランで美味しいご飯を食べるのも、デートですら。どこで作品のヒントになるか解らないので、ある意味全てリサーチですね。でもできるだけ新しい体験をするように心がけています。昨年は、アイスホッケー、ボルダリング、セイリング、スノーボードに手を出しました。ボストンにいる時は運動ばかりしていました。
注目している、または気になっている“課題”は何でしょうか?
いつも気になっているのは進化とか、本能(特に性欲と食欲)。本能は一体どこから来ているのか、というのは氏か育ちか、遺伝か環境か、という人間についての疑問で興味深い。そして最近は少子高齢化です、特に高齢化ですね。差別やバイアスはどこから来るのか。あと民主主義。科学技術としては遺伝子編集技術です。
「ポップローチ」© Ai Hasegawa
最後に、今後の作品・プロジェクトについて教えて下さい。
今後のプロジェクトはとりあえず「ポップローチ」という、嫌われ物のゴキブリを合成生物学で未来の食糧、機能性食品にする、というコンセプト作品を次の段階に進めること。あと、やはりデザイナーベイビーや遺伝子治療にまつわる作品も進めていきたいです。DIYバイオの授業も受けているので、その勉強を活かせる作品も作りたいところです。
平成27年度[第19回]文化庁メディア芸術祭受賞作品展
会期:2016年2月3日(水)~14日(日)
時間:10:00~18:00(金曜日20:00まで、入場は閉館の30分前まで)※2月9日休館
会場:国立新美術館
他会場:TOHOシネマズ 六本木ヒルズ、スーパー・デラックス、セルバンテス文化センター東京(※時間、休館日は会場により異なる)
入場無料
主催:文化庁メディア芸術祭実行委員会
TEL:03-5459-4668(文化庁メディア芸術祭受賞作品展インフォメーション)
https://festival.j-mediaarts.jp
Text: Aya Shomura