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五十嵐 淳

PEOPLEText: Hanae Kawai

木漏れ日と子どもの声がこだまする「コロガル公園inネイチャー YCAM InterLab+五十嵐淳」は、常設しておいて欲しいほど素晴らしいものでした。設計されていかがでしたか?

ひょんなことから関わらせて頂くことになったプロジェクトでしたが、もともと既にYCAMインターラボにより、しっかりとした概念が構築されていたので、初めは正直、難しい仕事だと思いました。ただ色々と思考を重ねているうちに遊具的ではダメで、例えば自然物に子供が触れた時、それは遊ぶ為に存在しているモノではありませんが、子供たちは想像力で遊びを発明するんですね。遊具は制作側が「このように遊んで(使用して)下さい」というモノですが、そうではない「子供にとっての気付きのキッカケ」となるようなモノを作りたいと考え始めました。つまり子供の気付きの視点により、多様に変化が繰り返されていくような存在を作りたいと考えました。遊園地ではなく「森」(自然物)のような建築を作りたいと。

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“Korogaru Park in Nature” YCAM InterLab+Jun Igarashi, Sapporo, 2014, Photo: Jun Igarashi

これまで手がけた設計で、特に印象に残っている作品についてお聞かせ下さい。

当然ですが、どのプロジェクトもベストで挑んできましたので印象深く残っていますし、私は思考の連続性により設計を続けているのでどのプロジェクトも大切です。ただその中でも契機になった作品がいくつかあります。「矩形の森」はデビュー作となりますが、この作品の思考が全ての思考のベースとなり連続しています。「風の輪」では北海道特有の気候風土による気付きと発見が建築の新たな創造性を獲得することに繋がりました。「光の矩形」「相間の谷」「間の門」ではその思考をさらに拡張することができました。そして内モンゴル自治区での「オルドス100」プロジェクトでは世界との距離感を掴むことができました。

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“Rectangle of Light” Jun Igarashi, 2007, Photo: Jun Igarashi

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“House of Trough” Jun Igarashi, 2008, Photo: Jun Igarashi

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“Layered House” Jun Igarashi, 2008, Photo: Jun Igarashi

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“Ordos 100” Jun Igarashi, Inner Mongolia Autonomous Region, 2008

日本だけでなく海外からも高い評価を受けていますが、海外にご自身の作品を発表するという考えは以前からお持ちだったのでしょうか?

そのような感覚は当初から全くありませんでしたが、私が建築設計を始めたのが1997年頃でしたので、Windows95によりインターネットの世界が一気に拡張した時期でした。私の実感としては、良い建築を作っていれば、世界のどこかで誰かが必ず見ていて、そして気付いてくれるのだということです。

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“Homenaje A Arne Jacobsen”, Flitz Hansen, Jun Igarashi, 2015

今年7月には、デンマークの老舗家具メーカー、フリッツハンセンの60周年を記念した展覧会「オマージュ・アルネ・ヤコブセン」において、アルネ・ヤコブセンの代表作、セブンチェアをアレンジする建築家、デザイナーの一人に選ばれました。出品に至る経緯や、実際にデザインしてみてのご感想をお聞かせ下さい。

今回に限らずオファーは突然メールで来ることが多いです。今回もそうでした。オファーが来た時にザハ・ハディドジャン・ヌーベルの参加が決まっていましたし、他のメンバーもそれぞれの国を代表する建築家ばかりなので、その中に選んで頂けたこと、そして日本として私を選んで頂けたことに興奮しましたし、セブンチェアはとても好きな椅子のひとつでしたから本当に嬉しいオファーでした。同時に原型を崩さずにデザインをするという企画内容にプレッシャーも感じながら取り組みました。

古い建築資材を材料として再利用されたそうですが、この方法に行き着いたきっかけと、完成までのプロセスを教えて下さい。

私は単に「デザイン」するというような作業をしたことがなく、コンテクストを読み解くことから始めます。セブンチェアに限らず工業製品は大量に消費されさます。私が普段やっている建築の仕事も同様です。生産する行為は人類にとって原初的な行動です。それは石器時代に始まったといえるかも知れません。ですので生産を否定することは正しくありませんが、何か少し生産と廃棄のサイクルの中でできることは無いかと考え始めました。東日本大震災の瓦礫が強い印象として私の中に存在していました。また日本では特に木造建築が多く、寿命が短く廃棄のサイクルも早い為、それらの木片の瓦礫を大量生産されるプロダクトに利用できないかと考えました。

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