スタジオ・ムンバイ展「PRAXIS」
HAPPENINGText: Miki Matsumoto
そんな彼らの事務所は、当然のことながら「本棚に囲まれた空間に製図台やパソコンが並ぶ」といった光景とは程遠い。『屋外では建物の様々な部分が組み立てられ、壁には大判ドローイングが立てかけられ、棚やテーブルは道具と作品に埋め尽くされている』(「STUDIO MUMBAI : Praxis」TOTO出版)という彼らのスタジオ(ワークショップ=工房、と彼らは呼ぶ)をここ東京の地で再現するというのが今回の展覧会コンセプトだ。
会場は3階(第1会場)と4階(第2会場)、およびそれを繋ぐ屋外の中庭で構成されているが、今回の展示に際して、まずはインドのスタジオに東京のギャラリー空間を実物大で再現し、約3ヶ月かけて展示空間を作り上げ、それを解体して東京へ移送し、現場で再構築したのだと言う。会場構成のみならず、それを完成させるまでのプロセスも含め、スタジオ・ムンバイの実践をまさに体現した内容と言えるだろう。
展示風景。第1会場中央におかれた「working table 01」。スタジオ・ムンバイ製の椅子に座って、テーブルに置かれたスケッチブックやスタジオ・ムンバイ手作りの写真集などを手にとって見ることができる。
展覧会場は、ブロンズ製の模型に日干しレンガ製の模型(用途に応じて素材やサイズを変えて制作している)、図面、瓶詰めされた染料、色鮮やかなタイルなど作業に直接関係するものから、インドの何気ない日常風景を切り取った写真やドローイングなど、その哲学を知るヒントとなるものまで大小様々なもので埋め尽くされている。
会場入口付近には、本展覧会の様々な展示物を職人が制作している映像が流れているが、俯瞰的な視点からではなく職人目線で作られたこの映像は、金属を溶接したり木を削ったりする職人の手元を多く映し出し、あたかも彼らの視点を再現するかのようだ。これから「彼らのスタジオ」を歩く鑑賞者にとって、絶妙な導入部の役割を果たしている。
大工が使うノミやカンナなどの道具も展示されている。
また会場の壁を埋め尽くす膨大な画像の中にある「Studies」と題された一角では、メンバーがインド国内を旅するなかで出会った「インフォーマル」(※)な光景をテキストと共に紹介している。
※BRICSの一国として急速な成長と変化を遂げるインドだが、安定したライフラインの提供が全土に行き渡っているとは言いがたい。ジェイン氏によれば、インドに暮らす人々の数は現在約12億人、そして国内の建物の半数以上が非正規に建てられているという。このような「インフォーマル」なものがインドではごく一般的であり、スタジオ・ムンバイの活動にもヒントを与えている。
それは例えば、日雇い労働者として夏の間だけ都会に出稼ぎにやってくる地方の農夫たちが、つかの間の寝床として夜の道路に張る蚊帳の集落であったり、放浪者がサリーを用いて赤ん坊の揺りかごやシェルターをつくる風景であったりする。制約のある環境下で人びとが想像力を働かせることによって生まれた自発的な空間 ―『慎ましくも自由な空間』(「STUDIO MUMBAI : Praxis」TOTO出版)―ジェイン氏がそう形容する空間を眺めていると、本当に豊かな空間とは何か、そしてそれは何によって可能になるのか、といった問いが次々と沸き起こってくる。
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