スタジオ・ムンバイ展「PRAXIS」

HAPPENINGText: Miki Matsumoto

「慎ましくも自由な空間」という形容は、スタジオ・ムンバイの建築にも当てはまる。『プロジェクトに取り組む間は、場所を念入りに検討し、そこにある環境や文化、人びとが身も心も捧げてきたことに目を向けるようにしている。なぜならそこには、限られた資源を相手に人間が創意工夫を凝らして編み出した建設技術と素材があるからだ。』(「STUDIO MUMBAI : Praxis」TOTO出版)

とあるように、サイトの特性に深い敬意を払うスタジオ・ムンバイだが、乾期の猛暑と雨期のモンスーンという厳しい気候条件と共にあるインドでは「環境を活かす」ことがプロジェクトの要になる。その中でも大きな鍵を握るのが水だ。農業大国として知られるインドにとって、水は恵みであると同時に脅威でもある。特にモンスーン期の雨は、大地を潤し、植物に活力を与える一方で、時として大都市に洪水を発生させ国のGDPにも大きな影響を与える。自然現象を抑えるのは不可能であるため、灌漑設備の整備や治水の強化といった工夫が必要になるわけだが、スタジオ・ムンバイは、こういった実用的な側面から生まれる必要性に知的なユーモアをもって応える。

スタジオ・ムンバイ展「PRAXIS」
ターラ邸のブロンズ製模型。中央部分で分断されており、地下部にある井戸と建物との関係を見ることができる。© Nacása & Partners Inc.

「ターラ邸」はスタジオ・ムンバイが2005年に手がけた住宅で、家の要となる敷地中央部に水を配置したのが特徴だ。地上部分から観察すると、敷地中央の庭を取り巻いて、環状にベッドルーム、リビングルーム、キッチン、ダイニングルームなどが並ぶコートハウスの形になっているが、庭の地下部分には井戸がしつらえてあり、季節、降水状況、月の満ち欠けといった自然のリズムと呼応して日々水位を変化させる。井戸には中庭にある階段で降りることができ、天井に設置された光源用の穴から差し込む太陽あるいは月の光や、外から吹き込む風が、静寂に包まれた薄暗い空間と水面に多様な表情を加える。通常は家の外側にある井戸を敢えて中央部分に取り込むことで、建築がサイトに依存していること、そして人々の生活が自然の恵みと切り離せないことが可視化される仕掛けだ。このように、完全には予測不可能な要素を取り入れることで物事を完成へと導く彼の姿勢には、未完成の美学とでもいうべきものが感じられる。

建築は生き物であり、変わることを余儀なくされるもの ―自然環境や人間と同じ、一つの生き物として建築を捉えるジェイン氏は、スタジオの職人一人一人に自発的な発言を促すのと同様、建築にも変化を受け入れ、それ自身で発展を起こせる余地を残す。先入観を脱ぎ捨て、無垢な視線で対象と向き合う楽しさに溢れる「スタジオ・ムンバイ展」は、見る者に自発的な発見を促す、実に有機的な展覧会だ。

TOTOギャラリー・間のホームページでは、今回の展示に合わせて来日したジェイン氏の講演会映像を公開している。氏の哲学により深く触れたい方は、是非参照されたい。

「スタジオ・ムンバイ展:PRAXIS」
会期:2012年7月12日(木)〜9月22日(土・祝)
時間:11:00〜18:00(金曜日は19:00まで)
休館日:日・月・祝日 ※但し9月22日(土・祝日)は開館
会場:TOTOギャラリー・間
住所:東京都港区南青山1-24-3 TOTO乃木坂ビル3F
入場無料
https://www.toto.co.jp/gallerma/

Text: Miki Matsumoto

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