池上高志
PEOPLEText: Yu Miyakoshi
最近では、現代アートとメディアアートの境を曖昧に感じるような展示を目にすることも増えてきました。ポロックのお話が出たのでお尋ねしたいのですが、例えばポロックのようなアートの表現にあった制約や限界を、メディアアートが越えていく可能性があると思われますか?
メディアアートと絵画の差ってそんなにあると思いますか?僕はわりと地続きだと思っていて、メディアアートで絵をつくる道具に内部構造がある、とかいうことはあると思うのですが、基本的には、その操作する人間の内面的なものがやっぱり重要だろうし、そんなには変わらないような気がします。むしろ、優れた絵画の方が、“100万画素を持った画像だとか何とか” といったものよりも、面白いことが多いですよね。何故そっちの方が面白いか、と思うことを考えるのが大事だと思います。
「Filmachine」 Concept & Composition: Takashi Ikegami, Keiichiro Shibuya (2006)
絵画にはできなくてメディアアートにできること、というのもありますが、どうでしょうか?
「何でもできることは、何にもできないことと等価」だって、僕は思います。何かしらの制約が入っているということが大事で、例えば他にはない「異物性」とか、あることにしか使えないという「特異性」の方が、アートにはいいと思う。万人が使える道具になった瞬間に、それは何かこう、アートとは無縁になっていくようなことが多い、そういう風に思います。科学もそうです。人工生命でも、何でもシミュレートできるものをつくろう、というSWARMプロジェクトというものがサンタフェ研究所でつくられたことがありましたが、プログラムが面倒くさいし結局誰も使わない。
メディアアートは、10年ぐらい前に初めて見た時は、企業の機器のデモンストレーションみたいでつまらないな、と思ったのが正直な感想でした。シーグラフ・アジア(コンピューターグラフィックス/インタラクティブ技術の総合展)を見た時も、つまらない感じがしました。そういったものよりも、アートをバックグラウンドにしているジェームズ・タレルやアニッシュ・カプーアやヨーゼフ・ボイスの方が、遥かに優れているじゃないですか。でも、当時から10年ぐらい経った今、アートとして活用できるような、多分それは技術ではなくて、なにか別のデザイン・パターンがつくられつつあって、面白くなってきた、というところだと思います。カプーアが追求しているテクスチャーが、コンピューターのような汎用性のあるものにも当然潜んでいるわけで、それをどう形で成立させるかというのは、面白い試みだと思うんですよね。ただ僕はもう少し先を行きたいので、もっとシステムの内部構造のようなものを考えますが。それは僕は別にアートが専門ではないし、ぼくがアートをするとすれば、そこしかないからですけれど、それが僕の感想です。
サイエンスとアートを分けていらっしゃらないということに驚きます。
普通は分けてますからね。僕も心情としては分けてないということで、プラクティカルには(実地では)分けていますけどね。友人の茂木健一郎が僕の展示を見に来てくれた時に面白いことを言っていて、「アーティストは猛獣で、研究者は猛獣使いだから、その二つが一人の人の中で同居するのは難しいだろう」と。その彼も両方のことをやっていますし、ダヴィンチも、もともとは両方やっていましたね。
アートとサイエンス、両方やることでお互いに影響するところはあるのでしょうか?
いい部分とだめな部分でありますね。精度= “precision” が違いますから。アートで持たなきゃ行けない精度と、サイエンスで持たなければいけない精度というのは違うから、そこを使い分けるのは結構難しいです。サイエンスだったら、分野外の人が投稿してきた論文を読むと、「あ、この人はこの分野の人じゃないんだな」というのが瞬時に分かる。それが良いことなのか悪いことなのかはわからないけれど、分野とかコミュニティというのは、ある種、精度をつくっていくというところがあると思うんです。それがコミュニティの大事なところでもあるし、分野を育てることでもありますよね。やっぱりどの分野にも、それなりの精度があって、それを外しちゃうと話にならない。僕自身、初めてアートに関わった後にアートの精度を上げるというのはすごく大変でした。
池上さんも精度を上げる努力をされたのですか?
そうですね。でも精度っていうのは、目に見えるものじゃないから、美術館に行って作品を見たり、音楽を一杯聞いたり、サイエンスだったら論文を一杯読んだり、そういうことをしているうちに、なんとなく分かるものじゃないですか。そういう意味で当然ですがアートにも専門性というものがある。あたかもそれがないように思ってる人は、間違っていると思います。
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