コーポラ・イン・サイト展

HAPPENINGText: Yuko Matomo

環境に呼応して自律的に成長する不可視(バーチャル)の建築。「Corpora in Si(gh)te」(コーポラ・イン・サイト)にはこんなコピーが付いている。このコピーだけを見てこれが一体どのようなものなのか、頭に思い描ける人がいるだろうか?少なくとも私には想像すらできなかった。

Corpora in Si(gh)te (YCAM)
© doubleNegatives Architecture

「Corpora in Si(gh)te」とは、視点の総体というような意味である。この作品は、山口情報芸術センター(以下YCAM)を中心として、館内と隣接する中央公園に40基のセンサーが設置され、それぞれのセンサーは、気温・明るさ・風向・音・人の動き、といった周辺の環境情報を感知し、それに応じて三次元空間上にプロセッシングされている「コーポラ」のプログラムが、複雑なルールを元に建築的な構造や形を変化させている。例えば、暗い場合は上に伸びる、人がいる場合はヴォイドを作り出す、風が吹けばその強さや向きに順応するという感じである。

Corpora in Si(gh)te (YCAM)
© Photo: 丸尾隆一 写真提供: YCAM

このセンサーの感知する環境情報の変化がコーポラに送信され、コーポラを構成している新しい構造結節点(ノード)を生む。外観からの構成によってでなく、ノードの生成変化と集合によって、この建築物が構築される。蟻塚や珊瑚をイメージしてもらうと分かりやすいかもしれない。環境に応じて刻一刻と変化する点と線が集積され、総体となってひとつのバーチャルな建築物を造り上げているのである。デジタルでありながら、有機的で植物的な建築物である。

Corpora in Si(gh)te (YCAM)
© Photo: 丸尾隆一 写真提供: YCAM

この作品を制作した「doubleNegatives Architecture」の主宰者である市川創太は『人は自分の見える範囲で世界を構築している。それでしか構築できない』と言う。

だから自分を中心に360度視点を持たせ、自分中心の球体のような視点を使って空間を表記する方法を生み出した。この視点は「super-eye」と名付けられ、各ノードがそれぞれ内部的観測視点として存在し得るシステムをもつことで「Corpora in Si(gh)te」を構成する重要な要素となった。

Corpora in Si(gh)te (YCAM)
© doubleNegatives Architecture

「surper-eye」の視点と、周辺環境に呼応しながら自律生成するプログラムが、「Corpora in Si(gh)te」の核である。このコアとなる概念と技術は、軍事的開発を起源に持つメディアも含めて、幅広い情報技術が統合されて成立しているが、それが人の感性を刺激するものとなった時にアートと呼ばれるものになるのではないかと思った。

Corpora in Si(gh)te (YCAM)
© Photo: 丸尾隆一 写真提供: YCAM

「Corpora in Si(gh)te」を体験し終えた後で、今までの自分の思考回路には無い何か新しいものに出会ったという感覚が残った。そして、YCAMを出ると何も無いはずの芝生広場に、環境に呼応して蠢く不可視の建築物が見える気がした。

Corpora in Si(gh)te
会期:2007年10月13日〜2008年1月13日
開館時間:12:00〜19:00(火曜日、年末年始休館)
会場:山口情報芸術センター(スタジオB、ホワイエ、中央公園)
住所:山口県山口市中園町7-7
入場無料
TEL:083-901-2222
https://corpora.ycam.jp

Text: Yuko Matomo
Photos: Ryuichi Maruo, Courtesy of Yamaguchi Center for Arts and Media (YCAM)

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