第54回 ヴェネツィア・ビエンナーレ

HAPPENINGText: Toshiaki Hozumi

一方、ジャルディーニ公園にある元イタリア館を中央館にとし、造船所跡地にある巨大な会場アルセナーレとあわせて行われた公式企画展は、どうだったであろうか。

「光」というテーマを美術史全体に照らしだそうという意向か、ビーチェ・クリーガーは美術史家らしく、本館の最初に16世紀のヴェネツィアにおける「光」の画家ティントレットの絵画3点を配置した。
このプロローグには、ティントレットを置くことで展覧会に一本道筋を与えた、という好意的な論調と、演出過剰でティントレットだけが会場から浮いて見えるという声との、賛否両論が集中した。

lv-ph18.jpgメイン館展示室への入口Monica BonviciniJames Terrell
メイン館(Haroon Mirza)

このティントレットに導かれるように、主に光や啓蒙をテーマにした、マーティン・クリード、ピピロッティ・リスト、ジェームズ・タレル、ハルーン・ミルザ(銀獅子賞受賞)、モニカ・ボンヴィチーニなどの83作家の作品が紹介される。

lv-ph22.jpglv-ph21.jpg
メイン館(Urs Fischer)

話題が集中した作品は、ウルス・フィッシャーによる蝋でできた巨大彫刻作品。16世紀の彫刻家ジャンボローニャの「サビニの女たちの略奪」の精密なレプリカ、および彼の友人のアーティスト、ルドルフ・スティンゲルの等身大彫刻に火をともし、会期中に溶けて徐々に破壊されていく、という作品だ。光が自己を食い破るように破壊するという構造が、免疫不全のアレゴリーのようにも見えて、シニカルなユーモアを感じさせながらも現代的に感じた。

lv-ph23.jpg lv-ph24.JPGlv-ph25.JPG
メイン館(Christian Marclay)

また、金の獅子賞を獲得したクリスチャン・マークレーの「時計」。横浜トリエンナーレにも出品されたこの作品は、古今東西の映画の中から、時計や時間を告げるシーンを抽出した作品だが、その時間が実時間と同じになるように仕組まれており、しかも連続した映像として見られるように編集してある、という実に手の込んだ作品だ。5分間違った時計が挿入されているなと思ったら、あとから「あの時計は5分遅れている」というセリフが挿入されていたり、そこはかとないユーモアや生の断片が示される。映画の時間と鑑賞者も実時間は区別がつかないことによって、人が物語の中を生きる存在であることが示される。まさに映画=ルミエールという光によって、啓蒙される作品だ。

最も「ILLUMInation」というテーマを反映していたように思われるのは、ティントレットのすぐそばに展示されたジャック・ゴールドスタインのフィルム映像「The Jump」であろうか。そのもとになったジャンプ映像は、ナチスの威容を全世界に知らしめたベルリン・オリンピックをレニ・リーフェンシュタールが撮影したドキュメンタリー『オリンピア』から引用されている。ネイションがもつ啓蒙の光のみならず、その闇の部分にも焦点をあて、ヴェネツィアというヨーロッパの地に小さな光を照らし出していたように感じられた。

Read more ...

[Help wanted] Inviting volunteer staff / pro bono for contribution and translation. Please e-mail to us.
MoMA STORE