内沼晋太郎

PEOPLEText: Yuko Miyakoshi

内沼さんの中でアートとビジネスが同時進行しているのが凄いですね。

ビジネスという言い方には違和感があるのですが、お金とお金じゃないっていう風に言い換えると、僕はアートだから、ビジネスだからお金になった方がいい、ならなくたっていい、というよりは、お金になることもならないことも、両方やっていないとだめだ、と思ってるんですよ。資本主義社会の中で人は無自覚でいると、いつのまにかお金を儲けることが優位になってしまう。例えば文章を書くのが好きで、書きたいことがあって自分でブログを書いていたりジーンやフリーペーパーをつくっていたりする。最初はどこに文章を書いても、お金が貰えなかったとするじゃないですか。それがお金を貰えるようになると、いつの間にか今度はお金を貰わないと文章を書かないようになっちゃう訳ですよ。そうなっちゃうと本末転倒というか、本当に書きたかったことが何なのかわかんなくなっちゃうんですよね。それはアート作品でも音楽でも何でもそうで、僕は色んな活動をしていきたい一人の人間として、そのことを凄く危険だと思っていて、いつも半分はなるべくお金にならないことをやろうとしているんですよ。何故かと言うと、お金にならないことは、世の中にあまり無いということなのですよ。つまり、世の中でビジネス上存在することのほとんどは、採算が取れてるのですよ。だから逆に言うと、お金を儲けることを諦めるとあんまり世の中にないものが作れるわけじゃないですか。これは誰がどこで儲けてるのか全然わからない、というものの方が新しい可能性が高い。つまり、凄い面白いこと思いつきました、企画書書きました、これはどうやって採算がとれるんだ?、いや、とれません、と言うと、普通企業ではその企画は無くなるんですよね。だけど個人だったら、自分がお金を出して採算取れなくてもやります、と言えばできるわけじゃないですか。だからお金から自由になると、新しいものが作れる可能性が高いわけです。だから、半分はお金と関係ないことをやるようにしています。

それがアートかアートじゃないかということは僕にとってどうでもいいんです。さきほど「アート的なアプローチの仕事が多い」というふうにおっしゃっていただきましたが、僕がやってる活動の何かを、「あ、お金が儲かってなさそう」という理由だけでこれはアートだね、って言う人もいるんですよ。そうなるとアートって、その定義は何ですか、みたいなことになる。それは言ってる人も、誰もよく分かってないし、僕もよくわからない。それならばそれをアートだって言ってくれてもいいし、別にどっちでもいい。ただ、アートのフィールドでやらなきゃいけない時、アートのメディアに紹介される時や美術展に出るという時には、僕なりに考えます。今、人の目の前に出して、ちゃんとアートとして機能するものかどうかということは、自分も鑑賞者として、観る側として好きなので、ちゃんと考えますね。

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「文庫本セット」カフェで実現した文庫本とドリンクのセットメニュー。ケーキセット感覚でセレクトされた本を楽しめる。

やりたいことやアイディアは常に沢山湧いてくるのですか?

そうですね。アイディアは一杯あります。でも、ゼロからでてくるものっていうよりは、人に求められて出てくることが多いです。自分でやりたくて仕掛けてることも色々あるんですけれども、自分が忙しい理由は、だいたい誰かが予想もつかないところからぼ僕に依頼をくれて、それをどんどん受けてしまうからなんです。求められることは嬉しいし、やったことのないことをやるのは楽しいじゃないですか。それで凄く大変なのですが、大体僕がやりたいこと半分、どこかからやってくること半分、という感じです。

アイディアマンていう人はやっぱりアイディアに溢れてる人じゃなきゃだめなんですよね。つまり、たまにしかアイディアが出ないけど、そのたまのアイディアが凄くいい人、なんていないんですよ。大体アイディアマンという人は、泉のようにどんどん出てるんです。それはある種筋トレみたいなもので、出し続けてないと出てこない。だから僕は、自分もどんどん出て来ていると思っているので、どんどん人に話してます。盗まれるとか、もうそんな時代じゃないと思うんですよ。これだけインターネットで世界中が繋がっていて、あるアイディアを自分しか考えてないなんて、ありえないんです。絶対100人ぐらい同時に同じことを思いついていたりしている。だから新しいことを考えた人は全然偉くないんです。やった人が偉い。そうすると、僕は自分で思いついたことなんて、実現できる量は限られているのでどんどん喋ります。どうしても自分でやりたいものも、今こういうことやりたいと思ってるんです、という話をします。それを誰かが先にやったって、僕が自分でやろうとしていることについては、僕の方が上手にできると思っているわけです。あとは、僕がやりきれないことは、誰かにやってもらった方が僕もそれを体験したいし、世の中は楽しくなるじゃないですか。

あとは、世の中に必要なアイディアの99.9%は、問題解決のためのアイディアなんです。どこかに何か問題があって、それを解決するためのアイディアが必要なケースの方が多いんです。ゼロベースの思いつきがもてはやされることは少ない。なので、アイディアを盗まれるとかいうよりも、僕がアイディアをアウトプットし続けていることによって、周りの人が困った時にあいつはいいアイディア出しそうだ、と思って貰えることの方が大事なんです。そこで僕が問題解決をすることが仕事になったり、何かを良くすることに繋がる、と思っています。

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