ヨアヒム・シュミット展
ロンドンの繁華街の程近く、ソーホー地区にフォトグラファーズ・ギャラリーがある。一人の写真家にフォーカスした展示から、イメージをめぐる歴史的な検証にいたるまで、その名の通り写真を専門としたギャラリーだ。
国際的な写真賞のホストを担うなど、その存在感はヨーロッパでも際立つ。日本からは川内倫子や都築響一なども展示を行っているが、いつ訪れても示唆に富む展示に出会えるだろう。ロンドンに着いたらさっそく覘いてみたいギャラリーのひとつと言える。そして、僕がロンドンにいた4月20日に始まったのが、ヨアヒム・シュミット展と「Found, shared: The magazine photowork」展だ。
ヨアヒム・シュミットは、1980年代から活躍するドイツ人の批評家であり写真のアーティストである。しかし、彼自身は写真家ではない。「Fotokritik」という写真批評誌を立ち上げた後、『古い写真を使い尽くすことなしに、新しい写真はありえない!』と大胆にも公言。様々な写真を蒐集してはユニークな視点で編集し、それをアート作品として発表している人物だ。
主な作品はこんな感じである。1982年から2007年のロンドンまで、ひたすら街で拾い続けたスナップショットとIDフォト集「Pictures from the Street」、あるいは広告で使われた同じ構図のポートレートを繋ぎ合わせる「Photogenetic Drafts」などなど。そのコンテクストを言葉で説明するのは簡単かもしれない。それでも、コレクションが整然と並べられたときの違和感とユーモアは、ありがちなイメージのクリシェを浮かび上がらせるのに充分だ。まるでカメラを目の前にして、必ずやってしまうパターンには謎めいた普遍性があるかのように。
そしてもうひとつの展示「Found, shared: The magazine photowork」もまた、興味深いものだった。こちらはドイツ発「OHIO」、オランダ発「Useful Photography」、アメリカ発「Found」という3つの “普通じゃない” ビジュアル写真誌のインスターレション。これらの雑誌の特徴は、写真を撮らずに選ぶということだ。
「OHIO」は、フォトコレクターとアーティストという異色のコラボレーションで、イメージを再構築する挑戦的なメディア。「Useful Photography」は、ハイアートと日常写真の間すれすれにある豊かなイメージをコレクトする。プロデュースはクリエイティブ業界を賑わすオランダのクリエイティブ・エージェンシー、ケッセルスクラマーだ。そして、「Found」は、いろんな人が偶然見つけた古ぼけた写真と、「I found…=私はどうやってそれを見つけたか」というメッセージとともに構成されている。
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