アブソリュート・アート・コレクション「ワイルダー・サイド」展

HAPPENINGText: Victor Moreno

商品もアートもアイディアを増幅し神話を創造しようとする衝動を持っているが、双方の分野には薄い壁がある。スウェーデンブランドのアブソリュートウォッカは1980年代以降、このような壁にぼかしをかけてきた。

今日私たちは、アブソリュートが商品の意義を敷衍しようと尽力してくれたおかげで、当ブランドのボトルを「アイコニック」と呼ぶことができる。1986年、アンディ・ウォーホルはアブソリュートに連絡を取り、このボトルを用いて行動を起こした。自分自身の解釈でアブソリュートのボトルを描くよう、とあるアーティストに勧めたのだ。するとそのアーティストもまた別のアーティストに勧め、このアイディアはまるで火薬のように広がった。

アンディ・ウォーホル、キース・ヘリング、エットレ・ソットサスやヘルムート・ニュートンといったアーティストが名を連ね、最初の一歩が魅力的な方法で世に現れた。かくして年月を経てアブソリュートは唯一無二のアート・コレクションを確立し、今日ではアブソリュート・アート・コレクション(AAC)として知られている。

AACの作品に共通しているのは、ボトルがモチーフにされていることである。詳細を述べると、全部で850ある作品は、1986年から2004年の間に、550名のアーティストによって制作された。現在AACを保有しているのは、ストックホルムのスピリットミュージアムである。毎年、スピリット・ミュージアムは夏に展覧会を開催するが、それはAACに焦点を合わせたものである。

キュレーターのミア・スンドベリ氏はAACの保管所を歩いていると、程度の差こそあれ作品の多くが動物を含んでいることに気がついた。それがAACの2018年夏の展覧会「ワイルダー・サイド」のアイディアに火をつけたのである。青い犬に吠えるオオカミ、人間の頭がついた蛇のような体、踊るヒトデ。これら全ての生き物は夏の間、快適な生息地としてミュージアムを占拠している。このファンキーな作品の寄せ集めの制作者は、ルイーズ・ブルジョワ、エド・ルシェ、マウリツィオ・カテラン、ジョージ・ロドリーゲといった才能豊かなアーティストたちだ。今年の出展アーティスト・リストには、40もの様々でユニークな作品が名を連ねた。

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Maurizio Cattelan © Spritmuseum – Absolut Art Collection

ストーリーテリングと価値創造はブランド戦略の核心だが、それは「双方の分野はどこで衝突するのか」という神話創造の中にある、とマーケティング担当のグレッグ・トーマスは説明する。有名なスウェーデン・ブランドであるアブソリュートは、フランスの酒造会社ペルノ・リカール社の傘下に入った。以前はV&Sグループ(スウェーデンの国営企業)がアブソリュートウォッカの製造販売会社だったが、2008年に有名なフランス企業のペルノ・リカール社に売却されたのである。これは、会社の売却によってそのブランドのアートも受け継がれるのかという、複雑な状況につながった。実際、この一件は解決のためにスウェーデン裁判所に提訴されることになった。

AACはスウェーデンに留まり、2008年、スピリットミュージアムがAACの新たなホームとなる。このためスピリット・ミュージアムは毎夏、あるテーマの元にAACの作品のセレクション展を開催している。最もよく知られているAACの作品には、ルイーズ・ブルジョワの作品に出てくる蜘蛛や、エド・ルシェの吠えるオオカミのシルエット、マウリツィオ・カテランの二日酔いのネズミ、ジョージ・ロドリーゲの小さな青い犬など、動物を特徴としたものがある。作品のメインテーマの動物がいる一方で、ただのディテールにすぎないものもあるが、必ずアブソリュートウォッカのボトルが添えられている。

『夏はストックホルムが最も活気に満ちた季節で、世界中から人々が訪れます。本当に、スウェーデンからも外国からも旅行者がやって来る季節なんです。AACは名を知られていますが、AACの多様性と華麗さ、そして全部で850もの作品が存在するという規模の大きさを知って驚かれる来場者は多いですね』とキュレーターのミア・スンドベリ氏は説明する。

ワイルダー・サイドのアイディアが始まった経緯について尋ねてみた。『毎夏、私たちはテーマを設定し、そのテーマに基づいて作品をセレクトします。可能性は計り知れません。アートと音楽の関係に基づいて展覧会を開催したこともあります。アートスクールで結成された非常に有名なロックバンドもありました。そして目下、私たちは新しい展覧会のテーマとして写真について話し合っています。AACには豊富な写真作品が存在しますが、まだ変更になる可能性があります。新しいアイディアがひっきりなしに浮かぶものですから、可能性は果てしないのです! 動物をテーマに選ぶというアイディアは、ある日保管所を歩いていて、全ての作品に目を通しているときに思いつきました。絵画の隅に描かれた小さな虫からキャンバスの中心像まで、動物を含む作品は非常に多いのです』とスンドベリ氏は説明してくれた。

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© Spritmuseum – Absolut Art Collection

AACがどのようなコレクションであるかを説明するために、中央ルームの展示スペースは重要な位置を占める。そこで目にすることができるのは、1986年にアンディ・ウォーホルがアブソリュートのために描いた壮大なペインティングだ。鮮やかな色彩とウォーホルのストロークの流れ。非常に素晴らしい作品であり、眼前で楽しめるまたとない機会だ。このように、ワイルダー・サイドは総じてAACの下で理解することができる。

ワイルダー・サイドは、動物が描かれた100を超えるAACの作品からセレクションされた約30のユニークな作品で構成されている。『愛しいものを葬り去るプロセスでした。選ぶことができたはずの素晴らしい作品は沢山あったのです。私たちは常にAACの国際性を示し、技術と表現形式の幅広い多様性を反映したいと思っています。多くの異なる要因が働いています。例えば、最近展示されたために除外された作品もあります。だから私たちは、この数年間でアーカイブから引き出されていないことをすることにしました』。

さらにスンドベリ氏は続ける。『AACには非常に有名なアーティストによって制作された素晴らしい作品がありますし、将来的には個展で彼らと仕事ができる機会があればと思っています。冬にはAACのアーティストの個展を開催します。現在は2018年秋の個展に向けて、英国アーティストのデイビット・シュリグリーと作業を進めています』

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