山口碧生 個展「陰翳」

HAPPENINGText: Ayumi Yakura

個展のタイトルであり、ホテルを訪れた人がロビーで最初に目にする2作品へ書かれた言葉「陰翳」。漢字は一文字でも様々な意味を持つが、「陰翳」という日本語は、「色・音・感情などに微妙な変化があって趣が深いこと」という意味を併せ持っている。

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「陰」「翳」2015年, 1,634 x 854 mm, 墨, 画仙紙, Photo: Akko Terasawa

「陰」「翳」に続き、ロビー中央の壁には「聲」「彩」「響」の三文字が並べられた。前述のとおり山口碧生の書作品には、元となる「詩」が存在する。本展では、会場で「作品」「タイトル」「詩」を併せて見ると、その全てがリンクして、詩への共感や、書作品への理解、表現への感動がより深まる構成となっている。

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「聲: 己の奥底に潜んでいた聲」「彩: ふたつ みっつと 色彩」「響: 静寂の中に響き渡る音色」2016年, 834 x 854 mm, 淡墨, 画仙紙, Photo: Akko Terasawa

ロビーを抜けてミートラウンジへ入ると、モダンな壁紙やレンガなど、表情豊かな壁面へ展示された10作品を見る事ができる。それぞれの壁には3つのシリーズ作品、色の詩のイメージを淡墨で表現した「カラーズ」、同じく音の「サウンドスケープ」、感情の「エモーションズ」が順に展示されており、各作品の副題は全て詩に散りばめられた言葉から引用されている。

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「Emotions II: こころの空間」2015年, 340 x 690 mm, 淡墨, 画仙紙

近寄って作品を見ると、淡墨の滲み方が独特であることに気付く。他者が模倣することは極めて難しいだろう。これには紙質と墨の調合にも秘密があるようだが、ここで特筆するのは、墨を生かした繊細な技術と類稀な表現力だ。ある作品の淡墨の流れは、まるで川面の一瞬を捉えた白黒写真のように光と影の移ろいを思わせ、時に激しく掠れ、またある淡墨の滲みは、風になびく絹のようにエレガントだ。

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「光: やがて」2016年, 345 x 1,360 mm, 淡墨, 画仙紙, Photo: Aoi Yamaguchi

さらに、ミートラウンジを入って右手前の壁には、横長の作品「闇: 陰翳という美の小宇宙」があり、その奥へ目を向けると、対となる作品「光: やがて」が見える。

山口碧生は、英語圏において自身の肩書きを「ジャパニーズ・カリグラファー」と紹介している。日本語の意味が通じない人にも「意味を語るような文字」を書く筆表現を試行錯誤する一方で、意味が通じないからこそ純粋にアートとして鑑賞してもらえるというが、彼女の筆表現の美しさは、書道への固定概念に捉われなければ、日本人でも純粋にアートとして鑑賞できるものだろう。

本展のパフォーマンスの最後に彼女は、観客へ向けて『小さな変化に趣を感じる日本の心は宝です』そして『思い描いたものは形にしなければ、他者が感じられません』と言った。重要なのは表現スタイルだけではなく、彼女が言葉の壁、ジャンルの壁を越え、書道の新たな可能性を追求しながら伝えようとしている何か、その陰翳を感じとることだ。

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山口碧生 個展「陰翳 IN – EI」THE RESONANCE of SHADOWS
会期:2016年2月20日(土)~4月30日(土)
会場:クロスホテル札幌 2階ロビー・ミートラウンジ
ミートラウンジ営業時間:10:00〜24:00(貸切の場合があります)
住所:札幌市中央区北2西2
主催:クロスホテル札幌(企画部 011-272-0051)
キュレーション:クラークギャラリー+SHIFT
協力:まちなかアート
https://www.crosshotel.com/sapporo

CROSS GENERATION Vol.19 in ICE HILLS HOTEL
日時:2016年2月18日(木)20:00〜21:45
会場:ICE HILLS HOTEL IN TOBETSU(スウェーデンヒルズゴルフ倶楽部特設会場)
住所:石狩郡当別町スウェーデンヒルズ2788-28
DJ:加賀城史典
ゲストDJ:ウチヤマナオヒト
スペシャル・アート・パフォーマンス:山口碧生 x Corey Fuller ライブ書道パフォーマンス
MC:潮音
お問い合わせ:クロスホテル札幌(企画部 011-272-0051)

Text: Ayumi Yakura
Photos: Akko Terasawa

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