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山口碧生

PEOPLEText: Memi Mizukami

日本が世界に誇れる芸術として書道を挙げる人は多いだろう。山口碧生(やまぐち あおい)はアメリカで活動する書家アーティストだ。人生の半数を書道と共に生きている彼女にとってのごく自然な表現方法である書道と、彼女が愛してやまない音楽とを用いてパフォーマンスを行う新たな若きアーティストとして日々成長している。また、伝統的な技術を用いた書家として活躍する傍ら、日本復興支援の一環として「RISE JAPAN」というイベントを企画したり、アーティスト集団「S.I.R.」を立ち上げながら新たな表現の模索者としても活動している彼女に質問した。

山口碧生
© Tokio Kuniyoshi

自己紹介をお願いします。

サンフランシスコ・ベイエリアを拠点に、書家として活動しています。7年前に渡米し、去年11月に書家としてアーティストビザを取得し、現在はサンフランシスコの隣の都市、オークランドに住んでいます。書道が世代や国境を越えて多くの人の目に触れられるよう、音楽、映像、舞踊など現代美術との融合を目指し、新たな作風を模索しながら、様々な都市で個展、グループ展や書道ライブパフォーマンスをしています。筆文字のロゴや、CD、DVDのカバーアート、コミッション作品も手がけています。

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「漆黒」, Calligraphy x Beauty in collaboration with Taichi Imai, New York, 2011 © Taichi Imai

6歳から書道を始め、人生の半分以上書道と共に生きていますが、表現者側にとって書道の魅力はどこにありますか?始めた当初から得意だったのでしょうか?

母親に連れられて行った書道教室。始めた当初は、先生の書き上げる非の打ち所ない美しいお手本を前に、ただただそれに近づこうと満足するまで書き続けていました。国語教師の父親の影響もあってか、幼い頃から詩や物語を書いたり絵を描いたりする事が好きで、将来の夢は作家になる事でした。凝り性な子どもで、鉛筆やペンを持って文字を綺麗に書くのは得意だったので、「筆遣いのテクニックの覚えがなかなか早いなぁ」と褒められたことを覚えています。書道は言葉を大切にするアートなので、自分を表現する手段の中で一番自然なものだったのだろうと思います。

私にとって書道の魅力とは、白と黒という限りなくミニマルな空間の中に、一瞬の情熱を封じ込めることができるアートだということ。紙の上で、筆にどれだけの想いを込められるか、そしてそれが線に現れるか。白と黒とのバランス、空白をいかに空白のままで彩るか。文字の歴史、成り立ちを理解した上で崩し、自分なりの表現を追求する楽しみ。線の流麗さ、力強さ、スピード、文字と文字との流れ、空白の取り方などで、頭に想い描いた世界を表現することに書家は徹します。素晴らしい作品には、書き手の心情、心構え、選んだ言葉の意味が絶妙なバランスで現れていると思います。私は白と黒の世界のなかに、刻まれた言葉が浮き出して来て、鮮やかな色が見えてくるような作品を目指しています。

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「RISE JAPAN」, Gallery Heist, San Francisco, 2011

書道はその見た目の魅力もさることながら、書かれた文字にも大変意図が含まれると思います。言葉選びというのはどのようにしているのでしょうか?例えば今回の「RISE JAPAN」の時を参考にお聞かせ願いますか?

言葉選びは、普段から書きためた徒然ノートからイメージを膨らませたり、尊敬する詩人の言葉を書物から拝借したりし、響きや韻、flowを考慮しながら、伝えたいメッセージが一番伝わるような言葉に書き上げます。声に出して読み上げたときのリズムや響きを整えてから、言葉の持つイメージから漢字か、平仮名、カタカナにするか、もしくは英語で書くかを考えます。

RISE JAPAN」は、日本の東北関東大震災を受け、アートで何か手助けができないかと思い、思いついた震災復興支援アート展覧会のタイトルです。共同企画者のギャラリーオーナー達と企画案を練る会話の中から、生まれた言葉です。日本が困難な状況から立ち上がり、繰り返し昇る日の丸のイメージから、RISE(昇る)JAPANを選びました。この表題を、ギャラリーの内の白壁、ギャラリーの持つストリートの広告壁スペースに書きました。多くの人の目に触れる場所に“RISE JAPAN”という言葉を大きく刻むことで、サンフランシスコのアーティストのみならずローカルの人々が一丸となって日本をサポートしようという意識を高められるようにと想いを込めています。そのミューラルペイントからプリントも制作し、売り上げを震災復興支援の為非営利団体に寄付しました。この第一弾の「RISE JAPAN」と第二弾の「RISE AGAIN」と題したイベントでは、総額26,000ドルもの金額を募る事ができました。人の心の暖かさに触れて、涙のとまらない瞬間でした。

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