マリアンナ・ドブコウスカ

PEOPLEText: Noriko Yamakoshi

「アーティスト・イン・レジデンス」という言葉を聞いたことがあるだろうか。レジデンス・プログラムとも呼ばれるこのシステムは、元来はある特定の専⾨職に就く者が⽇常から離れた環境で限定期間研究活動などを行うプログラムを指すものだが、1960年代以降、欧米で現代美術を含む芸術分野における⼀つの形として発展を始め、日本でも90年代、地方自治体を中心にその実験的な動きが活発となった。しかし国内での美術に特化したプログラムの継続は中々発展を遂げなかった。

そんな中、2002年5月、キュレーターを含むメンバーから成る「AIT」(アーツ・イニシアティヴ・トウキョウ、以下「AIT」)が、東京に誕⽣する。彼らは教育プログラムやレジデンシー、企画展などが有機的に関係し合う、それまでの⽇本の枠組みの中では存在し得なかったプラットフォームを創り出し、以来、現代美術に接したくてもどのように始めれば良いのか分からない⼈たちにも、それぞれの立場から自由に参加できる場を提供し続けてきた。

これまで70名以上ものアーティストやキュレーターを受け⼊れ、2011年には文化庁文化芸術の海外発信拠点形成事業として新たな二国間交換レジデンシープログラムを開始。第⼀回目はスコットランド、ニ回⽬はメキシコからのアーティストが来日、日本からは泉太郎や和田昌宏、森弘治を送り出している。2014年、第三回目の相手国としてポーランドに焦点が当てられ、キュレーターのアナ・プタックや、フランシスジェック・オルロフスキーヤン・シェブチックという二名の現代美術家が日本に滞在した。

そして2015年7月、AITは長年の提携機関であるバッカーズ・ファンデーションの助成により、再びポーランドから、ウジャドゥスキー城現代美術センター(以下「CCA」)レジデンスプログラムのキュレーター、マリアンナ・ドブコウスカを迎えた。約1ヶ月間の滞在を終える間際の彼女に話を聞いた。

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Marianna Dobkowska

生い立ちについて聞かせて下さい。

自然に多く囲まれたポーランド・ワルシャワ南部で生まれ育ちました。ワルシャワ大学にて美術史を専攻し、クラクフのヤギェウォ⼤学でキュレーションを学びました。

いつ頃から美術に興味を持つようになったのですか?具体的なきっかけなどはありましたか?

父がアーティストだったことが大きく影響しているかもしれません。1980年代初頭はちょうどポーランドで戒厳令(マーシャルロー)が敷かれた時期で、当時のアーティストはそれらに対抗する為に地下組織などを形成していた時代でした。父のスタジオがアーティストや批評家が集まる建物の上階にあったこともあり、私の子供時代は常にアーティストやその周辺の人々に囲まれていたように思います。アートが特異なことでも複雑なものでもなく、非常に自然に自分の一部になっていったのはこのためかもしれません。成長の過程では獣医になりたいと思っていた時期などもありましたが(笑)、大学は哲学科と美術史の双方を受験することになります。何故か哲学科の成績が受験者の中で一番という結果になり、周囲は私に哲学の専攻を薦めましたが、結局美術史を選択しました。今思えば何故双方を専攻しなかったのかと少し後悔しています。もちろん、その頃にはアートに携わる仕事に就きたいと考えていましたが、アーティストになろうとは思いませんでした。日々、自分に課題を課し続けて真摯に創作活動に向き合っていた父を見ていたので、簡単にその領域に触れてはいけないようにも感じていたと思います。

大学で美術史を専攻され、その後キュレーションを学ばれていますが、それは自然の流れだったのでしょうか?

私が働いているワルシャワにある美術機関CCAは90年代、とても影響力を持った存在でした。最初に働き始めた機関がこのセンターだったことが、私に大きな影響を与えていると思います。

Rooted Design for Routed Living
Rooted Design for Routed Living project, 2008-2010, Jakub Szczęsny, Photo: Nicolas Grospierre, Courtesy of CCA Ujazdowski Castle and the artist

ポーランドのその他の美術機関と比べて、CCAは何が特殊だったのでしょうか?

ワルシャワにはワルシャワ国立美術館や、ワルシャワ近代美術館など従来の美術館が勿論ありますが、そこで行なわれるプログラムには類似した傾向がみられます。CCAはワルシャワで現代美術に特化した初めてのセンターとして1985年に設立されました。13世紀に建てられた古城建築を活用した大規模なアート・センターで、展示施設のほか、図書館やカフェ、劇場など多岐にわたる機能を持っています。もちろん所蔵コレクションもありますが、それだけが目的ではありません。一番のミッションは作品制作とプレゼンテーション、双方の現場であること。それがその他の美術機関とは異なるところだと思います。CCAは2年前に亡くなった初代ディレクターの哲学の元、ロンドンのインスティテュート・オブ・コンテンポラリーアーツ(現代芸術協会)をモデルに設立されているので、ポーランド国内作家の展示は勿論、シアターやダンスパフォーマンスから国際展、教育プログラムや出版に至るまで幅広い分野がその活動の範囲となっています。

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