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渡邊希

PEOPLEText: Mariko Takei

黒く光沢のある色を指す言葉「漆黒」。その言葉の原点となっている「漆」を素材に、まさに「漆黒」の世界を展開する漆造形作家の渡邊希(わたなべ・のぞみ)。艶のある漆を巧みに使い、その鏡のような表面に周りの世界を映し出し、“内”と“外”の空間を曖昧にする。そんな彼女のつくり出す内側の世界を覗いてみた。

nozomiwatanabe

出身地である札幌には2年前に戻ってきたそうですね。

大学と大学院が山形で6年間過ごし、卒業してから2年間青森で過ごしてから札幌に戻ってきました。青森は、職人の街ということもあってか、若手を育てるための地元愛が強いところで、そういうスタイルを見ていたら、地元を大事にしなくてはいけない、地元で知ってもらわないと、どこにも通用しないな、という思いがあり、初個展は札幌で行うことに決めました。2008年8月に高校の卒業制作展を行った同じ場所の大丸藤井セントラルで開きました。

いつくらいから芸術的なことに興味があったのですか?

小さい頃からですね。母が毎年、年3回くらいは写生会に行っていたので同行して絵をよく描いていました。もともと内気で絵ばかり描いているような子供で、絵がきっかけで友達ができたり、学校でも先生が絵を教室にはってくれたりしたのが、嬉しかったのを覚えています。

高校では、絵を描いたり、陶芸をやったり、美術一色でした。大学でももっと美術をやりたいと思うようになったのですが、当時札幌には美術専門の大学がなかったので、北海道から一番近いところならと親の承諾を得て、山形にある東北芸術工科大学に入学しました。

渡邊希

「漆」と出会ったきっかけは何でしたか?

大学で陶芸を学ぼうと思って工芸科に入ったのですが、金属、染色、陶芸、漆と選択肢が更にあったのです。1年生のときに一通り体験するのですが、その時に漆が塗り物ではなく乾漆技法をはじめて知り、かぶれは恐怖でしたが、かぶれてもいいと決意したくらい、漆という素材の力に魅了されました。漆の作業が先生にべた褒めされ、背中を押されたというのもありましたが(笑)。

作品は、麻布で形を作って漆で張り合わせてつくっているのですが、漆という素材が形になるというのに興味をもって、塗料ではない力という、漆自体が芯になることを面白いと思って漆を続けるようになりました。あと、型に麻布を貼り重ねてその型を抜くのですが、型を抜くとその内側に自分の意図していない形があったりするのが面白くて。それも漆にしようと決めた理由のひとつです。

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