越後妻有アートトリエンナーレ 2006

HAPPENING

第3回目の開催となる「大地の芸術祭越後妻有アートトリエンナーレ2006」が新潟県十日町市、津南町をまたぐ越後妻有地域にて、壮大で膨大な作品やプロジェクト、イベントを共にして7月23日〜9月10日まで行われている。この豊かな里山での、他では体験できない風変わりなツアーを、既にこの夏休みの計画に置いている人もいるかもしれない。またはSHIFTでも紹介している2000年、2003年の体験レポートを記憶している人、実際に足を運んでいる人もいるだろう。総合ディレクター北川フラム氏(アートフロント代表)とサポーター、アーティスト、住民が、あらゆる枠を超えて築き上げるこの「大地の芸術祭」は、過疎化の進むこの地域のアートを媒体にした活性化を目的とし、今や世界中からの注目を集めている大野外アート展である。


前回の開催からこれまで、この美しい里山には多くの天災が降り注いできた。中越大震災、洪水、地滑り、豪雪。過疎化はさらに深刻化した。『地滑りで自分の田んぼが潰れたよ。やめるしかなかった。もうたくさんでしょう。』と話すのは、滞在中に出会ったタクシー運転手だ。一瞬にして生活の全てを変えざるを得なかった人々が少なくなく、『アートに触れている余裕なんて全くない』ほどに厳しい状況が続いた地域の1つである。しかしそこに入り込めたのも、またアートだったからではないだろうか。第1回の開催に際しても辛抱強く説得して歩き、徐々に地域の人々の心に触れていったと言うサポーターやアーティスト達は、この近年の災害時にも毎週末現地まで足を運び、長期に渡っての復興支援活動や被災児童対象のワークショップを中心とした「明日へのフォーラム」を開催してきた。

災害から懸念されていた今年の開催はつまり、多くを乗り越えた、まさに3年越しの「開花」と言えよう。それどころか逆境はさらに人々の熱情をかきたてたようだ。過去の恒久作品を含め、今年は約46の国と地域のアーティストによる337点の作品が広域に渡って張り巡らされている「大地の芸術祭越後妻有アートトリエンナーレ2006」。ここで紹介できる作品はその10分の1にも満たない上に、全ての中から選りすぐりのオススメ!!という訳ではないが、ほんの少しの滞在中に私がここで出会うことができたものと、こんなに多くの力が越後妻有に引き寄せられる理由の一部として読んでいただきたい。

新潟駅から上越新幹線、さらに「ほくほく線」に揺られてこの妻有地域に着いた私にとっては、松代駅周辺が「大地の芸術祭」の入り口となった。どう移動するかを相当試行錯誤するのも、この場所ならではの特徴である。歩いて作品を巡ることが不可能と言ってもいい広大さ、数字にして約760平方キロメートル(もちろん時間をかけて歩くのだってあり!)。どんなに事前に情報を仕入れて認識していても想像以上に広い。電車の駅にして13駅が全体エリア内に存在し、さらにそれらの駅から徒歩数分では到底たどり着けない距離に作品が点在しているのだ。

多くの来場者は車やレンタカーで移動をし、それがもちろん懸命で効率が良いし、雄大な景色の中グループでまわるのもそれだけで楽しい。しかし、いくつかのコースに分かれた見どころを解説付きで押さえることのできるバスツアーや、複数名で行けばコストが抑えられるタクシーによる周遊コース、中心の駅で貸りられるレンタスクーターやレンタサイクルを利用することなど、選択肢はたくさん用意されており、それぞれにそれぞれでしか味わえない発見ができる。例えば1日に数本しかないバスや電車の移動にて、思うように行きたい場所にたどり着けないことがあるとして(今回私にもたくさんあった)、そこでの待ち時間も含めて「大地の芸術祭」であるのだ。そうした時間に偶然に出会えた人々、見える景色、吹く風が、都会のせわしない感覚を忘れさせ、まもなく五感が開放されていく。

まず松代駅に直結する、まつだい雪国農耕文化村センター「農舞台」。前回2003年の目玉としてオランダの建築ユニット「MVRDV」が建設したこのステージは、今年も中心施設の1つとして機能しており、大地の芸術祭に関する情報やパスポート、オリジナル妻有ブランドのグッズを手に入れることができたりする場所でもある。建物は、雪にも埋もれず、夏の暑さをもしのぐことが考慮された設計で、柱が無い。トイレの茶目っ気あふれる仕掛けには驚いて1人笑う。

特に電車で移動をする人にとってこの「農舞台」は、駅周辺に集まる作品群を一度に見ることができる数少ないアクセス便利なスポットであり、期間中この後も多くのイベントがここで行われる予定だ。第1回の開催よりこのエリアの顔となっている冒頭写真のイリヤ&エミリア・カバコフ(ロシア)の壮大な作品「棚田」(2000)は、この建物内の展望台から見ることで伝統的な稲作の情景を詠んだ詩と融合して完成する。

「農舞台」の隙間、屋上、建物内には、金属が組み合わされた作品、岡部俊彦氏の「ワールド・エナジー・システム」(2006)が設置されていた。傍らには面白い形をした棒やアルミ板が置いてあり、自由に作品の至る所を叩いて音を出すことができる。みんなが思い思いに出す不調和な金属音が時折偶然リズミカルに響き渡り、周辺の深い緑に楽し気な空気を加えた。8月15日にはこの場所で、岡部氏本人、ニュートラル・プロダクション(サウンド・ビデオ)、中野辰彦(パーカッション)、DJアライグマ(ノイズミュージック)によるイベントが開催される予定だ。

いささか洗練され過ぎていてそぐわない感もあるが、ジャン・リュック・ヴィルムート(フランス)設計の「カフェ・ルフレ」では、開放的な窓から棚田を一望しながら地元の料理を楽しむことができる。旬の“ごっつぉ”(ごちそう)が勢揃いした野草料理「農の御前」、農家の普段の昼食をモデルにした「野良仕事定食」などの味は地元の人たちの手に寄るもの。天井には住民が住宅からの風景を撮った写真が施され、鏡のテーブルに映り込んでいる。

河口龍夫氏の2部屋構成作品のうちの1つ「関係—黒板の教室」(2003)。「農耕」と「文化」をテーマにしており、この「文化」の部屋では教室全面に黒板塗料が塗られ、あらゆる箇所にチョークで書き込みができるようになっていた。一方の「農耕」の部屋には地域で集めた農具に種子が封印されている。

越後妻有に誰もが連想できるのはやはり、お米であろう。まるで日本のおとぎ話に出てくるような田の風景に、稲作作業をする人の姿を目前にしながら妻有で食べるほくほくの白いご飯は、どこであっても格段においしい。「大地の芸術祭」でも象徴的なデザインとして至る所に起用されているお米の粒だが、ヴァンサン・デュ・ボア(スイス)は「ライス・ルーム」(2006)に表現している。普段は口にするお米に、ここでは反対に呑み込まれ、内側にはお米の音が流れていた。雨の音、川の音、大地が生み出す音には通じるものがある。

ジョセップ・マリア・マルティン(スペイン)の「まつだい住民博物館」(2003)は、「農舞台」入り口へと通じる通路に並んでいた。ここを歩くと突然聞こえて来た住民達の声。『良く来たねえ』などと人情味あふれる歓迎の言葉がスピーカーから流れ、迎え入れてくれる。このカラフルな板に記されているのは、松代全世帯分1470本の屋号だ。屋号とは地域の中で通用する家の名前で、どこかに届ける必要もなく自由に付けられるものだが一度付けると代々続くものである。

渡辺泰幸氏のプロジェクト「土の音—まつだい」(2006)。住民と共につくりあげた焼きものの音具が、小さな釜のまわりに並べられていた。それぞれに素朴な表情があってかわいらしく、それぞれに違った土の音がした。2003年には音具の遊び場を設置している作家は、引き続きその会場土市でも展示を行っており、8月19日、20日にはそれぞれ十日町エリア土市とこの農舞台において、演奏会(奏者、永田砂知子)が行われる予定だ。

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