越後妻有アートトリエンナーレ 2006

HAPPENINGText: Yurie Hatano

滞在中、とても印象に残った風景、作品に、津南エリア足滝で出会った。そこまではスクーターで十日町エリアからの移動を試みたのだが、これがなかなか厳しく、いつまでたってもどこまで行ってもたどり着かない。途中道に迷って行き止まりで途方に暮れることもあり、数日前の大雨による激しい流れと濁りの信濃川を、疲れきった体でしばし見つめていた。東京の電力の支えているという信濃川、作品を巡る際には何度も渡ることになるだろう。

イベントなどでアーティストやサポーター、来場者に出会って話をすると、この移動を指して『一番気持ちいいでしょ、正解!』だと言うのだが、スクーターで短い時間にエリアをいくつもまたぐのは間違いなくとてもとても過酷なことだと知る。しかし『疲れた。でもさわやかだった。』と寄せられるこの芸術祭の感想の真髄を最も感じられるのもこの方法か。スタッフによるとレンタスクーターやレンタサイクルは時間内に返しさえすれば移動距離に制限がないらしいので、天気がよければ何キロにも及ぶトンネルには気をつけて挑戦してみるのもいい。この曲がりくねった雄大な山地の移動をプロジェクトにするのは、伊藤嘉朗。「ツール・ド・妻有ツアー」として妻有地域を自転車でまわるサイクリングイベントを行っている。


Kenji Shimotori, Memory-Document, People of Ashitaki, 2006

だから足滝に着いて出会えた作品は、移動中の体感が感動に加わった。霧島健二による「記憶—記録・足滝の人々」(2006)が現れる。現在ここに住む約40人の撮影することで村に親しんだという霧島氏。過疎化が進み、離れる人が増えても、いつまでも心の支えとなる故郷を形にしている。一人一人の表情が想像できるようだった。傍らにある「タボ箱」と書かれた箱には、木でできた小さな円柱状のものが入っていて、訪問者はこれに日付と名前を書き、その円柱がはまる大きさの穴が沢山開いた木に木槌で打ち込むようになっていた。私が残してきたSHIFTの「タボ」を発見できる人はいるだろうか?

そこから少し登ると民家の間の空き家にて、さらに2名の作家による作品が納められている。元は集会所だったという建物の前には懐かしさ漂うブランコが。霧島氏を含めた足滝の作家3名による「足滝ブランコ・ワークショップ+レセプション」は8月4日にこの周辺で開催される予定だ。


Sugane Hara, Bullet/The Sacred House, 2006

空き家に入ると、原すがねの「弾/彼岸の家」(2006)が一階の部屋を赤く染めていた。集落の女性達と恊働して作業をすすめてきたという縄状になった古着の布が天井から吊るされている。思わず息を潜めてしまう祈りの空間。


Mitsuhiro Ikeda, Pop-up Project Ashitaki version, 2006

変わって2階には、かわいい仕掛けが施されている。池田光宏の「ポップアップ・プロジェクト・足滝バージョン」(2006)。取り付けられた階段に登り、天井の穴から顔を出すと、屋根裏の異空間で笑わずにはいられないご対面ができる仕組み。その表情を捉えた映像も映し出され、当人同士のみならず部屋全体に笑いがこぼれるのだ。


Mitsuhiro Ikeda, Pop-up Project Ashitaki version, 2006

この後、足滝とは別の場所で偶然にお会いした池田氏からは、開幕ぎりぎりまで足滝の会場で制作の調整を行っていたこと、宿泊場所から会場までの距離の大変さ、近所の人々の暖かさを伺えた。作品のイメージ通りの笑顔あふれる、2006年注目アーティストの一人だ。

今年は雪解けが遅く全体に制作も遅れ、会期に差し掛かっても完成していない2006年作品がいくつもあるとか。それにアーティスト達もここに入れば越後妻有の時間軸に触れ、制作時間の感覚も変化してしまうらしい。作品によっては天候にも左右される。例えば十日町エリア、レアンドロ・エルリッヒ(アルゼンチン)による遊び心あふれる仕掛けと共に住宅を表現する作品「妻有の家」(2006)にたどり着いた時は、まだシートがかぶされていた。最新情報は各インフォメーションセンターで手に入れることができるが、制作中のアーティストに出会えることも、貴重な楽しい体験になるだろう。

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