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越後妻有アートトリエンナーレ 2006

HAPPENINGText: Yurie Hatano

2006年の見どころとして掲げられている新しいプロジェクトに、約40軒の空き屋や廃校をアーティストや建築家がリノベートし、それらを里山の美術館として生まれ変わらせるという「空き屋プロジェクト」がある。震災によってさらに増えた空き家は壊すのにもお金がかかるが、アーティスト達がそこに価値を見いだし作品と共に蘇らせ、地元の人が管理することで、新しいコミュニティの場としても成り立つ仕組みだ。何十年にも渡って世界一の豪雪に耐え抜いて来た建物は歴史の重みを語り、作品に深みを与える。そこでできる地元の人達とのどんな会話もまた、不思議と作品の一部としていつまでも印象に残るのだ。


House of UBUSUNA

集落全体にあるそうした空き家を全て巡ることはできなかったが、農舞台にはこの「空き家プロジェクト」の各家々のリノベートの様子が模型と写真で展示されている。十日町エリア願入にある築80年の中門造り民家を蘇えらせた「うぶすなの家」は、このプロジェクトの一つとして見ておきたい場所。そこでは日本を代表する8人の陶芸家の展示が行われていて、作品だけでなく建物内部のかまど、囲炉裏、風呂、洗面台などがやきもので手がけられている他、土間のレストランで山菜料理などを楽しめる。食器も8人の陶芸家のもので揃えられており、茶会(この後8月6日、20日、9月3日)や、焼きものワークショップ(この後8月3日、30日)なども展開されている。


Yasuyuki Watanabe

十日町エリア土市にある空き家には、もう何年も使われていない歯医者の待合室と診療所があった。ナン・フーバー(アメリカ/オランダ)が光によってそれに手を加え、空間と記憶を作品化するプロジェクト「痕跡」(2006)、アルフレイド&イザベル・アキリザン(フィリピン)による「ドリーム・ブランケット・プロジェクト」(2006)、イ・スーキュン(韓国)の守護神像「最もよい彫刻」(2006)、そして渡辺泰幸の野焼き音具のプロジェクトはここでも紹介されている。一緒に焼きものを作ってきたという住民の人達が、一生懸命に解説をしてくれた。


KOHEBI

翌日のイベントに間に合わせられるように、と作業を進める「こへび隊」に出くわす。「こへび隊」とは「大地の芸術祭」を支える妻有で恊働するサポーター達のことで、様々な地域から様々な年齢、ジャンルの人達が集まっている。この滞在中にも東京からやってきた学生達や、駅や各会場にて受付を行う地元の若者から年配の方まで、本当に沢山の意欲的な目に触れた。アーティストも言及していたが、勢いのある力がこんなに集まってくるということに、芸術祭の可能性が示されているのかもしれないと思わされた。


Firoz Mahmud & G.A., Age 9th in Fareast Pacific

フィロズ・マハムド(バングラディッシュ/日本)の作品「極東の第9世代」(2006)に導かれ、前夜祭が行われる会場へと向かった。世界各地から越後妻有への移動をテーマにした作品は十日町エリアの広域に渡って張り巡らされている。


Dominique Perrault, Papillon/Pavillon, 2006

その前夜祭は、ドミニク・ペロー(フランス)が手がけた「バタフライパビリオン」(2006)のこけらおとしとして行われた。会期中は食事や休憩所として使える“あずまや”としても機能する能舞台にて、深い緑の中、能・狂言公演「妻有観世能」が繰り広げられた。「バタフライパビリオン」が建設された十日町市下条地区は、中越大震災の際に甚大な被害を負った場所でもあり、妻有地域の震災復興と再生祈念の意味も込められている。報道陣も沢山集まり、会場周辺には車やバスがずらりと並んで、日仏最高の競演に注目した。明るい時間には辺りの緑や池の水が、日が暮れてクライマックスに差し掛かる頃には鮮やかな羽衣が、屋根のメタルに映える。とても幻想的なシーンを荘厳でうなるような大地が包み込んでいた。

『前夜祭はどうだった?』帰りの道で声をかけてくる地元の夫婦。家の窓から行きも帰りも外をずーっと眺めていたおじいちゃんに手を振るとにっこり振り返してくれた。全ての窓を開け放して食事をしている家族の食卓は外から丸見えだ。作品と作品の間にあるあまりの距離に初めはどうしたことかと困ったが、汗を流して移動しながらこうしたシーンに度々出くわし、なんだか懐かしい感に胸がいっぱいになる。無人の下条駅にて40分後の電車を待ちながら、あぁこういうことだ、と思う。

この夜は昼間に訪れた松代エリア商店街にて松代観音祭が行われていた。期間中には芸術祭のプロジェクトだけではなく、沢山の地元の祭りや協賛イベントが開催されており、それも併せて楽しむことができる。『雨が降らないといいんだけど』と商店街の通りで空を見つめていたおばあちゃんの心配をよそに、大きくあがった花火の音は十日町エリアまで聞こえてきた。旅館では『心配してたよ!おかえり!』と迎えてくれるお母さんができた。

また、宿泊できるアート作品もある。松之山エリアにあるマリーナ・アブラモヴィッチ(旧ユーゴスラビア)「夢の家」、川西エリア節黒城跡の中腹に整備されたキャンプ場コテージ、ジェームズ・タレル(アメリカ)の「光の館」など、夏休み中は予約を取るのが難しいらしいが、是非体験したいところだ。夜のアートプロジェクトの一つとしては、木村崇人による「星の木漏れ陽プロジェクト」がこの後期間中の金曜日と土曜日に、なかさと清津スキー場にて行われている。

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