NIKE 公式オンラインストア

ラファエル・ロサノ=ヘメル「アモーダル・サスペンション」

HAPPENINGText: Chiaki Sakaguchi

1月25日午前6時。夜の明けきらない寒い朝、頭上に交差していた20本の青白い光のビームがいっせいに空へ立ち上がり交差すると、ふっと静かに消えていった。24日間にわたる光のインスタレーション、アモーダル・サスペンションのフィナーレはあっけなく、しかしその残像は、見上げる人びとの目蓋にしばらく残っていた。

携帯電話やコンピュータからウェブサイトへメッセージを送ると、それが光に変換されて空を飛びかい、夜空を巨大なコミュニケーション・スイッチボードへと変容するアモーダル・サスペンション。メキシコ系カナダ人アーティスト、ラファエル・ロサノ=ヘメルによるこの光のプロジェクトは、山口情報芸術センター(YCAM)の開館記念イベントとして11月1日から24日まで行われた。

東京や都市から来た人間は、まず、ここ山口のローカルな風景に驚くだろう。県庁所在地でありながら、2輛編成のローカル線が一時間に数本、特急も空港バスも高速のインターもない小さな街。西の京都を意図した碁盤目の街並には路地が多く、のんびりした時間が流れている。そこに誕生した最先端のメディアセンターYCAM。そして140,000wのサーチライトが描く壮大な光のインスタレーション。静かな街の上空に突然現れたエイリアンの襲来?という声にも不思議はない。しかし、その光の正体が、実は世界中から届いたメッセージだとしたら、怖れは消えるだろう。目に見えない電子コミュニケーションを可視化したこのプロジェクトは、この場所と遠く離れた参加者とをつなぐ友好的なエイリアンなのだ。

写真ではスペクタクルな印象を受けるアモーダルの光だが、実際に見る光の明滅は、静かで瞑想的だった。高い建物もネオンも少ない街ゆえに、センター近くの温泉街のホテルやバイパス、路地と路地の隙間、川面に映る光など、市内のあちこちから光を見ることができた。星空の夜には、はるか遠くまで光は届き、曇りの日には雲に当たって星座のようなスポットを描いた。雨が降ると雨がスクリーンとなって虹がでた。どこへ行っても頭上に光があると思うと、なぜか心強くなったりした。「僕の作品は、いわば公共空間にある噴水のようなものだ。いつもそこにあって、誰も特別なことだと思わない」という作家の言葉が思い出された。

Javaアプレットの遅さは少々気になったが、ウェブサイトは、10日間で12万5千人、世界58か国からのアクセスを記録した。ウェブ・トラフィックは日本語60%、英語40%、携帯電話からのアクセス数は日本国内が98%をしめていた。最終的には、79か国から約630万件のヒットを記録、9366本のメッセージがアーカイブに保存された。大成功といえるだろう。

続きを読む ...

【ボランティア募集】翻訳・編集ライターを募集中です。詳細はメールでお問い合わせください。
MoMA STORE