自然と魂 利根山光人の旅 — 異文化にみた畏敬と創造
HAPPENINGText: Alma Reyes
太陽の画家と呼ばれた利根山光人。その輝かしく熱烈な色彩は、生涯を通じて経験した多様な文化に新たな意味を吹き込む、躍動的なエネルギーを放っている。利根山光人(1921〜1994年)は1900年代後半に活躍し、メキシコ美術研究でも知られた美術家、画家。メキシコを題材とした情熱的な作品を多く残すとともに、メキシコ文化の紹介・普及に尽力、また日本における壁画芸術の推進に努めた。1986年にメキシコにおける最高文化勲章であるアギラ・アステカ・ブラーカ章を受章。1994年、勲四等瑞宝章を受章。
利根山光人 メキシコにて
世田谷美術館では本年11月9日まで「自然と魂 利根山光人の旅 — 異文化にみた畏敬と創造」が開催されている。同館30年ぶりの大規模回顧展となる本展では、油彩画50点、版画60点のほか、スケッチ約100点に加え、マヤ、アステカ遺跡の拓本やメキシコの蒐集品、記録写真など、初公開となる資料も多数含む総数250点余りを展示し、多彩な利根山光人の仕事を紹介する。
彩色木彫ワニ(メキシコ・ゲレロ州)利根山光人旧蔵、一般社団法人アルテトネヤマ蔵
彩色陶製オブジェ(メキシコ・メテペック)、利根山光人旧蔵、一般社団法人アルテトネヤマ蔵
最初の展示室では、利根山のアトリエで発見された個人コレクションから、興味深い仮面の数々と多様な美術品が展示されている。鮮やかに装飾されたワニの彫刻と太陽をモチーフにしたカラフルな陶製オブジェは、メキシコの民族民芸の奔放な側面を鮮やかに映し出している。
作家がユカタン半島に点在する考古遺跡を初めて探訪したのは1959年のことだった。先史時代の碑文や石彫刻が放つ不可解な力に深く心を動かされた彼は、拓本という形でその記憶を故郷に持ち帰りたいと切望した。1963年にはメキシコ生まれの国際的壁画家、ルイス・ニシザワと共に現地を再訪し、三十余りの史跡から百点以上の拓本を生み出した。その多くは世田谷美術館の貴重な収蔵品となっている。
利根山光人《王侯立像(拓本)》(メキシコ・チアパス州、ボナンパク遺跡、マヤ古典期 西暦780年頃)、1963年採拓、墨・和紙、世田谷美術館蔵
展示されているのは、メキシコ・チアパス州ボナンパック遺跡出土の《王侯立像(拓本)》(1963年採拓)で、マヤ古典期(西暦780年頃)のものである。また、メキシコシティの古代トゥーラ遺跡出土の《立ち上るジャガー(拓本)》(1963年採拓)は、トルテカ後古典期(西暦900年以降)のもの。
『熱風の吹くなかで、ちょうど持ち合わせた和紙を水貼りにして、腰の手拭いを即席のタンポ代りとし、日本画用の皿絵具で採ってみた拓本に、メキシコの人たちは目を見張った』(「古代メキシコ拓本集」美術出版、1971年)
続きを読む ...
