越後妻有アートトリエンナーレ 2025
HAPPENINGText: Alma Reyes
日本人初のノーベル文学賞を受賞した近現代日本文学を代表する作家の一人・川端康成。「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」という書き出しの一節で有名な川端の代表作「雪国」の舞台は豪雪地帯で知られる越後湯沢温泉がある新潟県湯沢町だ。年間ほぼ4ヶ月間雪に覆われるものの、良質の温泉、美味しい料理、絶景に恵まれた湯沢町は、2000年から3年ごとに開催されている越後妻有アートトリエンナーレの開催地でもある。
世界最大級の国際芸術祭であり、日本中で開催されている地域芸術祭のパイオニアとして国内外から注目を集めている越後妻有アートトリエンナーレ。国内外のアーティストによる約300点の作品が展示されており、作品は、新潟県内の十日町、川西、中里、松代、松之山、津南からなる広大な越後妻有地域に点在している。また、ワークショップやイベント、地域行事、アートツアーなど、山間部の社会生態学的景観を反映した「里山」の生活を体験する充実した様々なプログラムが用意されており、訪問者はアートに包まれた森、田園地帯、保存された村々の迷路のような風景に深く引き込まれていく。
マ・ヤンソン / MADアーキテクツ《Tunnel of Light》 Photo: Osamu Nakamura
7月19日に開幕した越後妻有アートトリエンナーレ2025は、今年11月9日まで開催されている。8月31日まで実施される夏のツアーの必見のハイライトの一つが、MADアーキテクツの建築家マ・ヤンソンが手がけた中里地区の《Tunnel of Light》。公開当初から人気の絶えない清津峡渓谷トンネルを改修したアート作品で、日本三大渓谷の一つ、清津峡の渓谷美とアートの融合を眺められる。季節ごとに異なる大自然の絶景も必見だ。
マ・ヤンソン / MADアーキテクツ《Flow, Tunnel of Light》 Photo: Alma Reyes
訪問者は、トンネルの展望台毎に展開する「色の表出」と題された異なる色の光とミステリアスな音楽の組み合わせを750メートルの通路で体験する。トンネルを進むと、第2見晴所に設置されたトイレ「見えない泡」を包み込むように、トンネルの壁面と床面を黒と白のストライプのパターンで覆った展望台「Flow」が現れる。空間を清津峡と一体化しダイナミックな動きを作り出すとともに、鏡面で仕上げられたトイレが斜めに伸びるストライプを反射することにより、より空間の中に溶け込む。さらに先へ進むと、露のしずくが第3展望台の湾曲した壁面に散りばめられた「しずく」が、水の分子のような滴状の鏡となって訪問者を包み込む。周囲の炎のような光は、温かさと宇宙カプセルのような雰囲気を同時に放っている。終点の「ライトケーブ(光の洞窟)」では、清津峡の景観を反転して映す「水盤鏡」の幻想的な眺めが待っている。トンネルをなぞる半鏡面仕上げのステンレススチールの表面に映し出される渓谷の風景は水の上にも投射され、自然の無限の幻影が生み出される。
内海昭子《たくさんの失われた窓のために》 Photo: T. Kuratani
十日町に設置された内海昭子のインスタレーション《たくさんの失われた窓のために》は、2004年の中越地震で深刻な被害を受けた地域にある、開けた丘の上に位置している。当時の住宅の多くが震災でひどく損傷したガラス窓を偲び、内海は陽の光を受け、白いカーテンが風でそよぐ窓を、追悼の記念として制作した。小さな階段の頂上に立つと、まるで自分の窓から眺めるかのように、静かに広大な農村風景を捉えることができる。
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