時代のプリズム:日本で生まれた美術表現 1989-2010

HAPPENINGText: Alma Reyes

昭和(1926〜1989年)から平成(1989〜2019年)への移行期は、国内外で画期的かつ激動の出来事を経験した。狂騒の1920~30年代は技術革新、女性参政権運動、芸術における卓越した職人技を触発。第二次世界大戦の火種は文明を傷つけたが、経済構造における飛躍的進歩への道筋を築いた。一方で1990年代に相次いだ世界金融危機、バブル経済の崩壊、地下鉄サリン事件、阪神大震災といった過酷な試練は、インフラと人間の精神に壊滅的な打撃を与えた。冷戦終結後、宇宙開発、公民権運動、気候変動、インターネットの台頭など重要な出来事が、多様性、自由、そして世界的な情報のシームレスな普及への道を開いた。

同様に、芸術家たちもこうした社会的・文化的変容に応答し、光を吸収し様々な波長で屈折させるプリズムの如き存在となった。プリズムが物体や状況を異なる角度から捉える比喩的な手法であるのと同様に、国内外の創作者たちは、社会的・文化的・政治的・技術的・環境的潮流を包括する多重スペクトルの解釈と統合というレンズを通して世界を観察してきたのである。


森万里子《巫女の祈り》1996年、作家蔵 © Mariko Mori, Courtesy of the Artist

このコンセプトに基づき、国立新美術館では「時代のプリズム:日本で生まれた美術表現 1989-2010」を12月8日まで開催している。本展は香港に誕生したアジアの現代視覚文化のグローバルミュージアム「M+」との初の協働企画で、焦点を当てるのは日本の文化と社会が大きな変革を迎えた、1989年から2010年。特に日本で探求した無限の可能性と、それが自由な芸術表現の本質を形作った多様な様相を軸に、国内外の50を超える作家を網羅し、今年で終戦80周年を迎える歴史的節目と、55年ぶりに大阪で開催される万博の意義を展覧会に凝縮している。


ナムジュン・パイク、ヨーゼフ・ボイス《2台ピアノのためのパフォーマンス》|撮影:安齊重男 草月ホール、1984年6月2日【1984年6月2日】国立新美術館ANZAÏフォトアーカイブ © Estate of Shigeo Anzaï, 1984, Courtesy of ANZAÏ Photo Archive, The National Art Center, Tokyo

海外アーティストの来日と日本人アーティストの国際展参加の両面において、大陸間交流のレパートリーが見て取れる。著名な視覚芸術家、ナムジュン・パイクヨーゼフ・ボイスによるパフォーマンス作品《2台ピアノのためのパフォーマンス》(1984年)は、1984年6月2日に東京・草月ホールで開催された輝かしい演奏会を記録している。パイクはピアノで日本のポップミュージックを即興的にアレンジした演奏を静かに披露し、ボイスはコヨーテから人間へと変容する分身について朗読を行った。この特別な共同作業は、東西の壁を打ち破る重要な転換点となった。


椿昇《エステティック・ポリューション》1990年、金沢21世紀美術館蔵 © TSUBAKI Noboru, Photo: Taku Saiki, Courtesy of 21st Century Museum of Contemporary Art, Kanazawa

1989年頃から日本の芸術の潮流は、大量生産品とマルチメディアを用いた大胆な実験を中心に展開した。消費主義と環境を取り巻く広がりゆく光景のメタファーとして、椿昇は《エステティック・ポリューション》(1990年)を制作した。これは黄色に塗装された発泡ウレタン、粘土、木材で構成された巨大な不定形の彫刻で、蜂の巣に木の枝が突き出たような形状をしている。タイトルにある“美学的汚染”という言葉は、美術評論や制度に対する作家の批評的視線を象徴している。

続きを読む ...

【ボランティア募集】翻訳・編集ライターを募集中です。詳細はメールでお問い合わせください。
MoMA STORE