トヨタ・ビッグエアー 2006
HAPPENINGText: Yurie Hatano
『こんな寒い場所でこんなに寒い日に、わざわざこんなに楽しいことやれちゃうのは人間だけだよね。』ライブアーティストの一組、エルレガーデンのボーカル細美武士がそう言った。すでに最初の10フィートの熱烈ライブによって弾け飛び、スノーボーダー達の熱いジャンプに興奮していた数万人もの観客達は、雪荒ぶ中ますます湧きあがり、この後続くジャンプの決勝戦スーパーファイナルで絶頂を迎える。それはまさに1月の札幌に起こった “氷点下の熱い夜” だった。
トヨタ・ビッグエアーは、北海道テレビHTBが主催する、トヨタの冠のついた、世界最大級のスノーボード・ストレートジャンプ・コンテスト。世界のトッププロ選手達が熱戦を繰り広げる大舞台だ。予選を勝ち抜いてその大舞台に出場することができる日本人選手達にとっての夢でもある。1997年より数々の歴史的シーンをスノーボード界に残してきたこのトヨタ・ビッグエアーは、もうすでにただのスノーボード・コンテストのみに留まらない、万人が注目する寒空直下の一大イベントとして年々成長し続け、今年ついに10周年を迎えた。
私がここでSHIFTリーダーにお届けするのは、このトヨタ・ビッグエアーのイベント全体に、冒頭の言葉通りの“人間の業”による大きな祭典を見たからだ。そして、1番や2番かどうかも然ることながら、いかにそれぞれの価値観におけるかっこよさを繰り広げるかという、熱い選手達のこだわりの“表現力”と“一瞬のアート”に思いきり魅せられたからである。
本戦が行われた1月28日は、朝から吹雪いたり止んだりを繰り返していた。会場にたどり着く前に、目に飛び込んでくる高さ約38mのジャンプ台(ビルの12Fに匹敵する)。その斜度47度は、目前にするとほぼ直角に見える。入口には吹雪の中、オープン前から列を作る人々がいた。
本戦が始まるのは、このジャンプ台に鮮烈なライトアップが映える夕方4時を過ぎてから。しかし、会場は昼間の1時よりオープンとなり、集まった観客達は、選手達の公開練習、会場に設置されたブース、アトラクション、そしてライブアクトなどを楽しむことができた。それぞれに楽しみながらも、立ちはだかるジャンプ台を目の前に、ゆっくりと期待を高められるこの時間がいい。
会場に設置されたアトラクションは、「バンジートランポリン」と複雑な回転を体験できる「ジャイロ」。どちらをとっても、飛んで回る選手達の目線に少しでも近付けそうだ。
シフトではお馴染みの横山美和のブースでは、フェイスペインティングが行われていた。用意されたキュートなモチーフを選んだり、好みに合わせたオリジナルペイントにも対応してくれる。決戦に向けてさらに気分を盛り上げる、フェスティバルに欠かせないプチアートは大好評。極寒のブースにも人だかりと笑顔の暖かさがあった。
トヨタブースでは、10周年のメモリアル大会として会場と同時に「トヨタ・ファンイベント」が開催されていた。4種の展示車両を覗き込んで見つけたキーワードと共に参加する、外れくじなしの嬉しい大抽選会も。あちこちに当たった景品を身につける観客達がいた。
雪は相変わらず降ったり止んだりを繰り返している。来場者も徐々に増え始め、ステージ前に人が集まりはじめた。楽しくもばらばらな会場の雰囲気が嘘のように突然がっしりとした一つになったのが、いよいよ本戦も開始に近づき、一つ目のライブアクト京都出身の3人組、10フィートのパフォーマンスが始まった瞬間だった。昨年度も猛吹雪の中パフォーマンスを行い伝説を作った10フィートが、今年も大会テーマ曲を書き下ろして参戦。今年でてきたボーカルTAKUMAの姿は、なんとタンクトップ一枚だ。そのはちゃめちゃな姿を上回る勢いで会場を湧かせ、雪だるまのように着込んだ観客達が一斉に呼応すると、人の波は揺れる大地のように蠢いた。
パフォーマンスのノリそのままに、数万人のコールが響く。ものすごい力で観客を最高潮にまで動かした彼と、会場全体の声『BIG AIR!』にて、ジャンプ台横のビッグスクリーンが花火を共にして噴いた。招待選手と前日の予選を勝ち抜いた日本人選手4名の計16名が、遥か上方のスタートゲートより華々しく舞い降りてきた。スクリーンでの紹介と、サウンド、ライトに彩られ。ほんの一握りのライダーしか見ることができないこのスタートゲートからの景色に、選手達は何を見るのだろうか。最も期待が高まる瞬間だった。
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