茨城県北芸術祭 2016
HAPPENINGText: Tomohiro Okada
日立の街の中を抜け、近代の賑やかさを建物の記憶にとどめるちいさな街へ。
力石咲「ニット・インベーダー in 常陸多賀」, 2016年
使われなくなった銀行の建物のロビーにまるで、都市開発の際のセメント練機のように、太い糸をつむぐロボットがいた。力石咲の作品制作のための道具「addi UFO」だ。この彼女しか使うことはないだろう不思議な機械で紡いだ糸で、栄華が抜けた閑散とした街にカラフルなニットの装飾を施してゆく。まるで親戚や友人に編み物をつくってときには一方的にプレゼントするような愛くるしさで、地元の人々に街のあらゆるものを巨大なニットで編みくるんで愛情もって送り続けている。
中崎透「看板屋なかざき」, 2016年
隣の同じく廃業した大きな店舗の跡では、この県内に活動の場を持つ中崎透が町村合併とともになくなった地名を施した、まるで繁華街のお店のようなライトスポットの看板をつくり、明かりを灯していた。20世紀のモダンを彷彿させるそのほのかな明るさは、あの頃あった地名とともに人々に深い郷愁を与えてくれた。
里山を廻る。
妹島和世「Spring」, 2016年 © 妹島和世建築設計事務所
一方、街道筋を山側に向け車を進める。秋真っ盛りの色とりどりの里山のおだやかな森の中を進む。その田園の風景をゆったりと愛でる場として、この地域で生まれた建築家の妹島和世(SANAA)は、直径10メートルのアルミによる円盤型の天然温泉に満たされた足湯をつくった。
アルミと泉によって鏡面に写りこむ風景や空、田園の景色の重なりは、浸かる足の暖かさとともに、穏やかな心地よさを持たたしてくれた。
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